北海道書店ナビ 第154回 いわた書店
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心を揺さぶる一冊との出会いは人生の宝物。書店独自のこだわりやオススメ本を参考に、さあ、書店巡りの旅に出かけてみませんか?
「小さな町こそ、小さな店こそ面白い」。人口2万人弱が暮らす道央の小さな町、砂川市にあるいわた書店のホームページを開くと迎えてくれるメッセージだ。父親から店を継いだ岩田徹さんが始めた「お任せ選書一万円」は同店の目玉企画。細やかなやりとりの末に結ばれる文字の架け橋だ。[2013.12.16]
[youtube:http://www.youtube.com/watch?v=mg-7Ds1lsVg]
美唄市から始まる日本一長い直線道路、国道12号線は砂川市内に入ると地元菓子店10店舗が建ち並ぶ「すながわスイートロード」に早変わり。甘い香りが漂ってきそうなエリアだが、我々の目的地はスイーツにあらず。市内唯一の個人書店「いわた書店」を訪ねた。
三菱美唄炭鉱の鉱員だった父が始めた店を24歳から手伝い始めた現店主の岩田徹さんも今年で61歳。親子二代で半世紀以上もの間、砂川の本文化を支えてきた。「本屋とラジオは似ています。必要な人には絶対欠かせないもの」。
新刊やメディア化原作本ではなく“本当に面白い本”を読みたい人はいつの時代にもいる。6年前に始まった「お任せ選書一万円」はそんな本好きから支持を受けている同店の目玉企画。申し込みの際には最近読んだ本と○、×、△でつける評価を聞き、職業やよく読む雑誌などの簡単なアンケートに答えてもらう。
好みが明確な人はわかりやすいが、『鬼平犯科帳』と中村うさぎのエッセイどちらにも「◎」をつけてくるような“オールラウンダー”相手の選書こそ、店主の腕の見せどころ。「そういう人には明治時代に日本を旅したイザベラ・バードの『日本奥地紀行』。こうくるか、という変化球を投げて読書の幅を広げてほしいんです」。
申し込みは東京や大阪、京都などの道外からも。6年間にわたるやりとりが分厚い3冊のファイルに保存されている。家族構成や本にまつわるエピソードなど会ったこともない岩田さん宛てに綴る“読書相談”が本屋の矜恃を刺激する。「どこで買っても値段は同じ本をうちの店に選んでほしいと言ってくださる方々の期待に応えたい」。日本全国に広がる顧客との文字の架け橋を続けている。
〈企画の人〉でもある岩田さんは2008年に発売された最新版広辞苑の予約購入者から旧版を譲り受け、日本語を学ぶ留学生たちに寄贈するキャンペーンを北海道書店商業組合に提案。皆が笑顔になるこの企画は新聞でも取り上げられ、リアル書店の存在をアピールできた。
隣町の滝川にある老舗書店が閉店したときも地元の新聞販売店とタッグを組み、本の宅配をスタート。いわた書店から毎日届く注文本を運ぶ販売店にとってもやりがいのある仕事になっているはずだ。
40坪の店は岩田さんが「面白い!」と思うタイトルがひしめいている品揃え。少しでも広さを出すために自分たちの手で棚を低く削り、店奥に雑誌を置くひと工夫でお客を招き入れている。壁に並んだコミックを見ると…あれ、シュリンクはなしですか?と訊ねると岩田さんがニヤリ。1冊引き抜くと幅5センチくらいの透明ビニールの帯がかかっていた。「これ、ケーキに巻くアレね。地元のお菓子屋さんから分けてもらってます。業者さんはきっと“さすがスイーツのまち、よく注文がある”と思っているんじゃないかな(笑)」。
地元密着店に他人行儀なシュリンクに似合わない、でも店としては立ち読み対策をしたい本音もある。そんな葛藤を地元砂川の得意ジャンルで見事に解決。なるほど、やっぱり「小さな町こそ、小さな店こそ面白い」ですね、岩田さん!
Store picture
40坪の店をくまなく見てもらえるように雑誌は奥に配置。
店主の好みがストレートに伝わってくる棚の「顔」。
店頭には岩田さんが並べた棚から奥さんがひょいひょいっと選書したミニコーナーも。「これがまた売れるんですよ」とちょっぴり複雑な心情の岩田さんだ。
スイーツのまちの本屋さんならでは!コミックのシュリンクがわりにケーキ用フィルムを使用。
Basic information
【 住 所 】砂川市西1条北2丁目1番23号
【 電 話 番 号】0125-52-2221
【 営 業 時 間】9:00〜19:00
【 定 休 日 】日曜日定休
砂田さんがセレクト! 3冊のおすすめ本
1)渡辺京二著「逝きし世の面影」(平凡社)
「お任せ選書一万円」でもよくラインナップに入れている珠玉の一冊。江戸末期から明治初期にかけて来日した外国人識者の目に映った日本の風景を収録。現代の我々にとっては150年前にタイムスリップしたような感覚で楽しめます。単なるノスタルジーではない日本の美しさに深く考えさせられます。
2)池澤夏樹著『静かな大地』(朝日新聞社)
北海道にからめた本から一冊選びました。朝日新聞に連載されていた、明治期に淡路島から北海道の静内に入植した一家とアイヌの人々の歩みを描いた一大叙事詩です。私たちが暮らす北海道がどんな先人たちの営みから生まれてきたのか。年末の読書にふさわしい読み応えのある北海道の物語です。
3)山本作兵衛著『新装版 画文集 炭鉱に生きる 地の底の人生記録』(講談社)
筑豊地方の炭鉱マンだった作者の絵画や日記などが2011年、ユネスコ認定の「世界記憶遺産」に国内初登録。失ってはならない記憶として炭鉱(ヤマ)の姿が蘇ります。美唄の三菱炭鉱に勤めていた私の父は技術者で、私も就学前は炭鉱住宅育ち。本書には格別な思いがあり、5歳のときに世界初の人工衛星スプートニクを見ようと皆が見上げていた夜空のことなんかを思い出します。