北海道書店ナビ

北海道書店ナビ  第204回 MARUZEN&ジュンク堂書店札幌店

書店所在地はこちらをご覧下さい。

心を揺さぶる一冊との出会いは人生の宝物。書店独自のこだわりやオススメ本を参考に、さあ、書店巡りの旅に出かけてみませんか?


北海道書店ナビをご覧の皆様、新年あけましておめでとうございます。道内の書店や出版業界のホットな話題を紹介する北海道書店ナビ、2015年の更新はMARUZEN&ジュンク堂書店札幌店から始まります。ベテラン書店員の菊地さんに2014年の動向と今後の展望をうかがいました。[2015.1.5]

[youtube:http://www.youtube.com/watch?v=d_N59TVz3bc]


コーヒーハンター川島氏のブックカフェで待ち合わせ

北海道書店ナビがいつも頼りにしているMARUZEN&ジュンク堂書店札幌店のベテラン書店員の菊地さん。2014年の業界総括と傾向をうかがおうと、2014年9月にリニューアルした2階の「MJ BOOK CAFE by Mi Cafeto」で待ち合わせをすることにした。
経営会社のMi Cafeto(ミカフェート)は、良質な豆の産地を求めて世界中を旅する“コーヒーハンター”川島良彰さんが代表。川島氏監修の国産ドリップマシーン「CS-1」も完備するほか、こだわりのハンドドリップでも提供している。
クロワッサンや無添加パニーニなどフードメニュ—も充実し、限定10名のランチも用意。ぐっと魅力が高まって、すでに“マイ・ブックカフェ”として通い慣れているような若いお客様の姿もあった。今度ランチに来てみようーーそう、心のメモに残したくなる素敵な空間だ。

東京元麻布本店の「MJ BOOK CAFE by Mi Cafeto」。完熟チェリーのみを使用した上質な味わいが楽しめる。

スタイリッシュなインテリアも居心地の良さを誘う2階の「MJ BOOK CAFE by Mi Cafeto」


コーヒーハンター川島良彰さん監修のドリップマシーン「CS-1」があるのは道内でここだけ!


2014年のふり返り その1:映像化がけん引する[コミック人気]

菊地さんに早速、2014年の傾向をうかがったところ、「きっとどの書店さんも同じことを言われると思いますが、まずは〈コミック人気〉でしたね」とズバリ一言。2014年最大のヒットコンテンツとなった「妖怪ウォッチ」や、まだ勢いが止まらない「進撃の巨人」等に引っ張られ、クロスメディア化・映像化本が大人気。[映像化]イコール[ヒット作]の公式がより強まった一年だったようだ。「いま当店のいち推しコミックは高野文子さんの『ドミトリーともきんす』。Webメディア『マトグロッソ』に連載されていた作品に2篇を収録。コミックコーナーだけでなく、理工系や文芸の棚にも置いて多面的にアピールしており、年末の総合ベスト10のランキングにも入りました。」


高野文子著『ドミトリーともきんす』(中央公論新社)

朝永振一郎、牧野富太郎、中谷宇吉郎、湯川秀樹ーー科学者たちの言葉をテーマにした高野文子最新コミックス。ひとコマも読みとばすことができない、深遠な科学の世界に導いてくれる。


2014年のふり返り その2:サイズかネタか、個性を問われる[雑誌たち]

「これは2012年から始まった動きですが、女性の小さいバッグにも入るミニサイズの雑誌は、お客様のほうが上手に使い分けていらっしゃるように感じます。iPadと同じくらいの大きさなのでOLの方が仕事バッグに入れたり、小さいお子さんがいるお母様が荷物を軽くしたくてお買い求めになったり」。男性誌や週刊誌の動きについては「どこも“売れるネタをつかめ!”という方向性がぐっと強くなって、週刊誌ごとの個性を根気よく伸ばしていくという今までの枠組みが変わってきているのかもしれません」。
そのなかで創刊号が売れたのは、2014年10月24日に創刊された『つるとはな』だと菊地さんはいう。「『Olive』や『ku:nel』に関わった編集者さんたちがつくった大人の雑誌です。廃刊になった雑誌から新たな雑誌へ編集者の意思が受け継がれている。そこに希望を感じます。憧れの気持ちもこめて、こういういい雑誌はどんどん出してほしいですね」


『つるとはな』(つるとはな)

「話を聞きたい年上のひとは、ひとりでいることをおそれず、こころのうちに尊敬する誰かがいて、語るべきことを少なからずもっている。(中略)年上の先輩の話を聞く小さな場所。それが「つるとはな」です 」(出版社からのメッセージより)


2014年のふり返り その3:方向性を指し示すもの[ビジネス][実用書]

ドラッカーを再発見した“もしドラ”ブームは2009年だった。「次にくるのは、フランスの経済学者トマ・ピケティだと言われています。2014年12月にみすず書房から出た『21世紀の資本』が約6000円という高額にも関わらず順調に動いています」。
実用書や自己啓発・生き方指南本はここ数年元気がいい。「他者との関係や自分のライフスタイルをどう築いていけばいいのか、より具体的な方向性を指し示すものが売れる」傾向にあるという。「強烈だった“断捨離”のインパクトはいまも続いていて、『フランス人は10着しか服を持たない〜パリで学んだ“暮らしの質”を高める秘訣〜』の人気もその延長上にあると思います」


トマ・ピケティ著『21世紀の資本』(みすず書房)

所得格差と経済成長は今後どうなるのか? 18世紀にまでさかのぼる詳細なデータと明晰な理論によって、これらの重要問題を解き明かす。格差をめぐる議論に大変革をもたらしつつある世界的ベストセラー。


2014年のふり返り その4:現実がフィクションを凌駕する[文芸]

菊地さんご自身の担当である文芸について訊ねると、「どの出版社も苦戦している分野ですが、最近は実社会で起きるノンフィクションがフィクションを凌駕してしまっているような印象を受けます。そんななかで、11月に刊行された池澤夏樹・個人編集の『古事記』は、驚異的な売れ行き。嘘か真かはさておき、神々の誕生から国の創成まで混沌の中から紡ぎ出される物語は、生命力に満ち溢れています。聞きかじっただけで終わらせていた『古事記』を読み易い現代語訳で読む絶好のチャンス!また、読み始めにもピッタリな一冊だと思います。
ポスト芥川賞作家として個人的に注目しているのは滝口悠生。3月に新潮新人賞を受賞した『寝相』でデビューを飾りましたが、1月15日刊行予定の講談社刊の『愛と人生』は、なんと寅さんへのオマージュ。こちらも期待大です!」
外国に目を向けると、2014年4月17日、〈ラテンアメリカ文学の巨人〉ガルシア=マルケスが亡くなった。「物語を語らせたら彼の右に出るものはいませんでしたが、実は彼の訃報とほぼ同時期に飛び込んできた悲しい知らせが、カナダの作家アリステア・マクラウドが亡くなったこと。邦訳されたのは4冊という寡作の人でしたが、ルーツが〈北〉にある作家ならではの雪の描写やゲール語の歌が出てきたりして、北海道にも通じる地方性を持った人でした。とても残念です」


池澤夏樹・訳『古事記』(河出書房新社)

世界の創成と、神々の誕生から国の形が出来上がるまでを描いた最初の日本文学。混沌の中から生まれた人間臭い神々の物語を、池澤夏樹の流れるように美しい現代語訳で。


2014年のふり返り その5:「負けてないぞ、本」の[北海道]

最後に、地元で出版された北海道本についてお話をうかがった。2014年は札幌国際芸術祭があり、7月にオフィシャルガイドブックが発売された。「当店でも200冊近く出て、お客様の関心の高さが伝わりました。12月には『人と自然が響きあう都市のかたち 札幌国際芸術祭2014ドキュメント』も刊行され、オフィシャルガイドブックと対をなす一冊として順調に売れ行きをのばしています」。
また、「少し前になるけれど記憶に残る本」として、2012年に亜璃西社から出た『地図の中の札幌』をあげた菊地さん。「他にも古地図本は何冊か出ていますが、『地図の中の…』には鳥瞰図や変わりもの地形図など“この本でしか読めないもの”が、ぎっしり詰まっています。紙面から自分のまちが立ち上ってくるような一冊でした」。同書がコアなファンに高く評価された勢いにのり、2014年11月には同じ作者の『北海道 地図の中の鉄路-JR北海道全線をゆく、各駅停車の旅』も発刊された。
「そしてなんと言っても圧巻だったのが、寿郎社から刊行された岡和田晃・編の『北の想像力』。副題に《北海道文学》と《北海道SF》をめぐる思索の旅とあるように、この評論集は新旧の北の文芸作品だけにとどまらず、映画や伊福部昭の音楽にまで触れている。776ページで持ち重りのする作品は、編者の熱意がビシビシと伝わってくるようで、”負けてないぞ、本”と嬉しくなってしまいました」。
電子書籍をタブレットで読む時代に、古地図を愛でる読書家がいて、片手では持てない本の需要もある。「どちらのニーズも大切にされるべきですし、楽しみ方はお客様次第。いま、“本が売れない”のは電子書籍の台頭だけが理由ではないことは、各出版社さんも重々理解していて、さまざまな試行錯誤に取り組んでいます。そこに並走する私たちリアル書店がお客様に向けて、手でさわれる本の魅力をどう打ち出していくのか。大きな、取り組みがいのある課題です」


岡和田晃・編『北の想像力《北海道文学》と《北海道SF》をめぐる思索の旅  』(寿郎社)

安部公房に荒巻義雄、円城塔作品まで新旧の北の文芸作品を、北海道という大地を縦糸に、文学を横糸に論じた画期的な評論集。個人的には、吉田一穂が出てくる章で涙。巻末のブックガイドは必読!


自宅では本棚に入る数だけの本を所蔵し、「二度読まない本は人に贈る」という菊地さん。年末の多忙な時期にご協力ありがとうございました!

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