北海道書店ナビ

第257回 蘭越町花一会図書館 司書 若林 由美子さん

5冊で「いただきます!」フルコース本

書店員や編集者が腕によりをかけて選んだワンテーマ5冊のフルコース。
おすすめ本を料理に見立てて、おすすめの順番に。
好奇心がおどりだす「知」のフルコースを召し上がれ

Vol.33 蘭越町花一会図書館 司書 若林 由美子さん

花一会図書館の開館年から勤務している若林さん。

[本日のフルコース]
蘭越町の司書が子どもたちに伝えたい
「悲しみや不安、絶望の隣にあるもの」フルコース

[2016.1.25]

書店ナビ 人口5000人のまち、蘭越(らんこし)町には図書館活動を行う生涯学習施設「コミュニテイプラザ花一会(はないちえ)」があります。
「花一会図書館」の愛称で親しまれている当館は2007年に開館。
2013年に発足して新聞やネットでも話題になった町おこしプロジェクト、町民の世帯数1%以上の方々が一斉に電子書籍でデビューする「らんこし作家デビュー・プロジェクト」にも協力し、電子書籍と同じ内容を印刷・製本した全68作品の専用コーナーを設け、貸出しています。(プロジェクト代表の高橋伸次さんがつくってくれたフルコースはこちらです)。

門柱に描かれたきれいな花模様が目印、蘭越町花一会図書館。


入口正面にある「らんこし作家デビュー・プロジェクト」のコーナー。

書店ナビ フルコース企画の蘭越町編2回目は、この花一会図書館の司書若林由実子さんにお願いしました。
事前に「児童書やYA(ヤングアダルト)でつくりたい」とうかがっていたので、出来上がってきた「悲しみや不安、絶望の隣にあるもの」というちょっとドキリとするタイトルが意外でした。
若林 私たち「花一会」の活動のひとつに、小中学校の授業で本を紹介する「ブックトーク」があります。私がよくやるのは、テーマありきの選書ではなく、ぜひ読んでほしいと思う本を並べてそこから共通するテーマを探し出す方法で、今回のフルコースづくりもそのやり方で「悲しみや不安…」というテーマを抽出し、そこからさらに5冊に絞りこんでいきました。

[本日のフルコース]
蘭越町の司書が子どもたちに伝えたい
「悲しみや不安、絶望の隣にあるもの」フルコース

前菜 そのテーマの入口となる読みやすい入門書

はっぴぃさん

はっぴぃさん
荒井良二  偕成社

表紙は幸せを感じる黄色い太陽と平和の象徴の鳩、小さな花と蝶蝶。ところが見返しから始まる絵は、日常が戦争に壊されている場面だ。主人公は、悩みごとを聞いてほしくて「はっぴぃさん」に会いに山にのぼる男の子と女の子。「たくさん ねがいを いいました」という一文の繰り返しに胸が詰まる感動作。

若林 私はどの本も文字を先読みするタイプなので、二度目に「絵を読んだ」ときは衝撃でした。感じるものの差があまりにも大きくて。絵と文字の両方で読み手の想像を広げてくれる絵本という表現の豊かさを教わった一冊です。
書店ナビ “のろのろ“を悩む男の子と“あわてんぼう”を悩む女の子。主人公の設定がいかにも「身近にいそう」で親近感が持てますね。
若林 最後まで読むと、蘭越にいる子どもたちも戦火に暮らす世界の子どもたちも皆それぞれの願いや祈りを持っているんだということが胸に迫ってきます。
のろのろくんとあわてんぼうさんはお互いに相手の「はっぴぃさん」になったのかもしれませんね。

スープ 興味や好奇心がふくらんでいくおもしろ本

べんり屋、寺岡の夏。

べんり屋、寺岡の夏。
中山聖子  文研出版  

小学5年生の美舟は将来の夢を「まっとうに生きる」なんて書くクールな女の子。父は売れない画家で今でも夢の途中のような人。お母さんとおばあちゃんが便利屋をやって家計を支えている。子どもだって大人だって思うようにいかないのが人生だ。でも思うようにいかない人生にも思いがけない幸せがちゃんとある。

若林 半身不随になったおばあちゃんを施設に預けることにした美舟の同級生一家や、スポーツ特待で入った高校でひじを痛めて野球を続けられなくなった少年…。
寺岡家や周囲の人々が“思うようにいかないこと”に向き合っていく姿が丁寧に描かれています。
書店ナビ 思春期のころは当初の目標から少しでも逸れてしまうと“人生が終わった”くらいの挫折感を抱いたりしますよね。
若林 でも、もし最初に描いた夢をあきらめるときがきても、その先の自分を肯定できるような思いがけない幸せはちゃんとある、というのがこの物語のメッセージです。
幸せの形はひとつじゃなくて家庭ごとに別々の幸せがある。長く読み継がれてほしい家族の物語です。

魚料理 このテーマにはハズせない《王道》をいただく

ワンダー

ワンダー
R・J・パラシオ  ほるぷ出版

主人公のオーガストは生まれつき顔に障害がある。会った人にぎょっとされるのは当たり前の日常だ。そんな彼が初めて学校へ通うことになった。「まるで屠殺場に引かれていく子羊じゃないか」と反対する父親。オーガストのような子がいたらどう接したらいい? ないことにはできない現実にどう対応するかを自分ごととして考えさせてくれる一冊。

書店ナビ 章立てはオーガストの一人称に加えて、オーガストの姉ヴィアやヴィアの彼氏、学校の友だちなど複数の登場人物の視点から描かれています。
若林 オーガストと関わることでそれぞれの心が揺れ、変化していく。人はちょっとしたことでもそれをきっかけに変わることができると信じさせてくれる力があるお話です。
オーガストの両親がとても愛情深くて、「自分は愛されている」と子どもが無条件に感じ取れる親子のやりとりに何度も目頭が熱くなりました。
物語のはしばしに『ホビットの冒険』や『ライオンと魔女』などの名作が登場するところも好きでした。

肉料理 がっつりこってり。読みごたえのある決定本

世界を平和にするためのささやかな提案

世界を平和にするためのささやかな提案
池澤春菜、伊勢崎賢治他20名  河出書房新社

だれもが幸せに生きたいはずなのに世界のあちこちで憎しみと悲しみと絶望が生まれ続けている。優しく命を救う手が、その同じ手で人を撃ち、殺したりもする。なぜ? 平和なんて無理? だけどあきらめたくない22人の提案。 

書店ナビ 執筆陣にはユニセフ親善大使の黒柳徹子さんや「武装解除人」の伊勢崎賢治さんほか、タレントの中川翔子さん、漫画家の辛酸なめ子さん、札幌出身の若手詩人・文月悠光さんなど、「この人はどういうことを言うんだろう」と知りたくなるメンバーが名を連ねています。
若林さんが特に心に残った人はどなたでしたか?
若林 イラストレーターであり絵本作家のヨシタケシンスケさんの章は肩の力を抜いて読めましたし、「10代諸子への委任状」を書いた絵本作家の加古里子さんは1926年生まれ。戦争を体験している世代は、やはりことばの重みが違いますね。
以前、小学6年生国語の「未来がよりよくあるために」という授業の資料にこの本を貸し出したところ、担任の先生から「読み聞かせにぴったりで、とてもよかったです」という感想をいただきました。

絵本『りゆうがあります』が人気のヨシタケシンスケ氏も参加。

デザート スイーツでコースの余韻を楽しんで

清陰高校男子バレー部

2.43 清陰高校男子バレー部
壁井ユカコ  集英社

声が聞こえる。音が聞こえる。心臓が破裂しそうな緊張や迷い、疑い、信じようとする心を感じる。伝える言葉が下手すぎてチームメイトとうまくいかない天才セッター灰島や、その灰島に認めてもらいたくてエースアタッカーとして成長する黒羽…誰も彼もが魅力的で心を掴まれる、地方弱小チームが春高を目指す青春ストーリー。

書店ナビ 本当はこの3倍近くある若林さんの解説文がゲキアツでした。
タイトルの「2.43」は、バレーボールのネットの高さ2.43mのこと。全日本バレーボール高等学校選手権大会、通称「春高バレー」に懸ける青春群像が、この一見かわいらしい表紙の中に詰まっているようです。
若林 もう大好きすぎてどうお伝えしたらいいのか…(笑)。登場人物は灰島くんと黒羽くん以外にも、誰よりもバレーを愛する身長165cmの主将小田くんや、小田くんを陰に日向にサポートする副主将の青木くんとか…
彼らのバレーへの情熱と、大人には絶対持てない、苦しくてもつらくてもキラキラと輝く時間は《極上のデザート》だと思います。

ほぼ2年ぶりに出た続編をあっという間の2時間で読破したという若林さん。「今から3rd seasonが待ち遠しいです!」

ごちそうさまトーク 町内の木工房制作の椅子も設置

書店ナビ 花一会図書館さんに入ってすぐ大時計が迎えてくれました。
若林 大時計を取り囲んでいる椅子や貸出しカウンターは、同じ町内にある「木工房湯ノ里デスク」さんに作っていただきました。
現在「花一会」の蔵書数は4万冊近くあり、今回のフルコース以外にも中高生の皆さんに読んでほしい本をたくさん取り揃えています。

図書館になる前の施設からそのまま引き継いだ大時計。

絵本の部屋にも湯ノ里デスク製のインテリアを発見!名作絵本がよく映える。

書店ナビ 揺れ動く10代の心をやさしく受け止め、励ましてくれるフルコース、ごちそうさまでした!
●蘭越町コミュニティプラザ花一会
住所/北海道磯谷郡蘭越町880番地9
TEL・FAX/0136-57-6085
メール/hanaichie@voice.ocn.ne.jp
開館時間/火曜〜日曜10:00〜18:00(水曜は20:00まで)
休館日/月曜、毎月第4金曜、国民の祝日、年末年始
貸出/1人5冊まで2週間貸出し可

2015年5月から北海道書店ナビは書店員さんや編集者の方にお願いしています、「お好きなフルコースを作ってみませんか?」と。素材はもちろん皆さんが愛する本を使って。

《前菜》となる入門書から《デザート》として余韻を楽しむ一冊まで、フルコースの組み立て方もご本人次第。

読者の皆さまに、ひとつのテーマをたっぷりと味わいつくせる読書の喜びを提供します。

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