北海道書店ナビ

第563回 千歳市総務部危機管理課 課長 髙橋 裕輔

Vol.202 千歳市総務部危機管理課 課長 髙橋 裕輔さん

 

2022年10月23日、まちライブラリー@ちとせで公開インタビュー形式で髙橋さん(画像右)にお話をうかがった。撮影協力/まちライブラリー@ちとせ

[本日のフルコース]
千歳市危機管理課の髙橋さんに聞きました
小さなことから始めよう!「防災」の本フルコース

[2022.11.14]

ふるこ

書店ナビ今回の「本のフルコース」は「まちライブラリーブックフェスタジャパン2022」とのコラボ企画。2022年10月23日、会場のまちライブラリー@ちとせにうかがい、公開インタビュー形式で行いました。

第538回 まちライブラリー@ちとせ

www.syoten-navi.com

書店ナビフルコースを作ってくださったのは、千歳市総務部危機管理課の髙橋裕輔課長です。フルコースのテーマが危機管理課のお仕事の一つである「防災」ですが、千歳には千歳市防災学習交流施設「防災の森」がありますね。

髙橋はい、「防災の森」の近くには千歳市防災学習交流センター「そなえーる」もありまして、ともに防災について学べるスペースです。
「そなえーる」の2階には地震体験コーナーがあり、「防災の森」では土嚢を作ったりする屋外での防災学習体験ができます。

大正12(1923)年9月1日に首都圏を襲った関東大震災を踏まえて、9月1日は「防災の日」と定められています。
そこから始まる1週間は、日頃忘れてしまいがちな防災について考えようという防災週間であり、千歳市でも毎年「そなえーる」で大々的な防災訓練を行っています。

書店ナビ千歳市民以外の人たちも「そなえーる」や「防災の森」を訪れていいんでしょうか。

髙橋防災の森」のキャンプ場など一部有料かつ事前予約が必要なところもありますが、基本的に入場や見学はどなたでもご利用いただけます。

千歳市防災学習交流施設『防災の森』 – 北海道千歳市公式ホームページ – City of Chitose

www.city.chitose.lg.jp

千歳市防災学習交流センター『そなえーる』 – 北海道千歳市公式ホームページ – City of Chitose

www.city.chitose.lg.jp

書店ナビ防災本のフルコースを作るにあたって心がけたことは何ですか?

髙橋私自身が重たすぎる本は苦手な方ですので、皆さんにも気軽に手に取っていただけるようなものを織り交ぜながら考えてみました。

[本日のフルコース]
千歳市危機管理課の髙橋さんに聞きました
小さなことから始めよう!「防災」の本フルコース

前菜 そのテーマの導入となる読みやすい入門書

地震イツモマニュアル
地震イツモプロジェクト  ポプラ社
ポップな絵とともに防災に関する様々な知識が紹介されています。これ一冊あれば、災害発生時の心構えや防災グッズなどの基本的な準備ができます。

髙橋まずは《前菜》ですので、絵を見ながら防災の基本が頭に入ってくる本を選びました。ポップでかわいいイラストは、「大人たばこ養成講座」などで有名なイラストレーター寄藤文平(よりふじ・ぶんぺい)さんが描いています。
この本のテーマは「在宅避難」。もちろん災害の規模や時間、場所によっていろんな状況判断があると思いますが、もしご自宅にあまり被害がないのなら家で過ごせるのが一番ですよね。
ただ、その時に家で何日か過ごせるような備蓄や用意は普段からしておいた方がいい。その部分を具体的に解説しています。

書店ナビ「水は1人1日2リットル×家族の人数×7日分用意しておくといい」など、わかりやすいですね。

髙橋我々危機管理課も普及に努めている、普段食べているものを多めに備蓄して古いものから食べていく「ローリングストック法」についても紹介されています。

防災は「モシモ」を想定して行うものですが、これを「イツモ」という普段のことにしておくと、導入のハードルも下がるはず。可能ならば、”一家に一冊”の入門書です。

書店ナビこの『地震イツモマニュアル』(2016年)に大幅加筆した『防災イツモマニュアル』も2020年に出版されました。そちらもおすすめです。

スープ 興味や好奇心がふくらんでいくおもしろ本

被災ママに学ぶちいさな防災のアイディア40
アベナオミ  学研
東日本大震災で被災した著者による、在宅避難で役に立つ物などのアイディア集です。特に女性や小さいお子さんのいるご家庭に役立つ情報が盛りだくさんで、ためになります。 絵がとてもかわいらしく、楽しみながら防災について学べます。

書店ナビこちらもコミックエッセイで、読みやすかったです。著者のアベさんが1歳半の息子さんを抱えながら3月11日にどういう行動を取ったのか、という非常にリアルな体験談から始まるので引き込まれました。

髙橋なんといってもアベさんの絵がかわいらしいですし、ペットの避難のこととか非常時に持ち出す防災バッグの中身など細かいところまで網羅している内容もいいですよね。
例えば、もし断水した時は水道局が復旧するまで各自で水を確保することになりますが、水の持ち運びは案外大変なもの。そんな時にリュックタイプのウォーターバッグがあれば女性でも背負えますし、両手が空きます。

書店ナビ私が特に印象に残ったのは、アベさんのお子さんにハウスダストアレルギーがあり、避難所に行こうと言い出す夫と意見が割れるところ。
そういうことも含めて、万が一の時にどうするかを家族で話し合っておくことが大切なんですね。

髙橋ええ、非常時には誰もが冷静ではいられないので、「うちはどうするか」を普段から話し合っておけばよりスムーズな避難につながります。
アベさんは震災の経験を活かして防災士の資格も取得されています。

魚料理 このテーマにはハズせない《王道》をいただく

ふたつの震災「1・17」の神戸から「3・11」の東北へ
西岡研介・松本創  講談社
阪神・淡路大震災の取材を経験した元新聞記者の2人が、東日本大震災後の東北地方をめぐり、被災者の生の声を集めたルポルタージュです。家族が行方不明のままで復興に向き合えないご夫婦の話など、被災当事者になることの現実を突きつけられます。

髙橋私は千歳の市立図書館をよく利用していまして、防災本コーナーで見つけたのがこの本です。
この本を読み終わって感じたことは、東日本大震災は今もなお”終わっていない”ということ。あれほどの大打撃を受けたまちが復興に向かう難しさを、行政に関わるものとして改めて考えさせられました。

被災当事者のリアルな声が詰まった本ですので一瞬「重たすぎるかな」と手に取るのをためらいましたが、著者たちの文章が非常に読みやすくて、このボリュームでも最後まで読み切ることができました。そこもおすすめ理由の一つです。

書店ナビ平成7(1995)年1月17日に起きた阪神・淡路大震災と2011(平成23)年3月11日に起きた東日本大震災。防災を語る上で忘れられない出来事です。

髙橋阪神・淡路の時の被災地である神戸はもともと大都市なので、復興にあたっては新しい産業を立ち上げたり、外から人を呼べる企画作りが中心になりましたが、一方、東北はもともと過疎地が多い場所。何をもって「復興」とするのかが異なります。
東京が掲げる「復興」と地元の要望とのギャップや福島から首都圏に送られる電力に対する意識のねじれなど、いろいろな問題提起がなされていたように感じます。

また、東日本大震災は津波の被害が甚大で、行方不明者の数が2000人以上に上りました。ご家族が見つからない方々は気持ちのふんぎりがつけづらく、そこに著者の2人が悩みながら向き合う姿も印象的でした。

書店ナビ西岡さん・松本さんが悩みながら取材を続ける姿勢は、今のメディアにこそ必要なんじゃないかなと感じました。
本書は2012年に刊行された本ですので今でしたら電子書籍を買うか、古書を見つけるか、図書館で借りるかという選択肢になりますが、気になる章だけでもいいのでぜひ目を通してもらいたい震災ルポルタージュです。

肉料理 がっつりこってり。読みごたえのある決定本

日本沈没(上)
小松左京  小学館
50年近く前のSF小説ですがリアルな描写とエキサイティングな展開で、「もしこの場所に自分がいたら」と恐怖を感じます。防災ノウハウ本からは明らかに外れますが「自分も災害に巻き込まれるかもしれない」という心の準備ができるのでは。エンターテインメント作品として今も変わらぬ輝きを放っています。

書店ナビ《魚料理》はノンフィクションでしたが、こちらの《肉料理》は究極のフィクション、日本SF小説の金字塔『日本沈没』です。
2021年に小栗旬さん主演でドラマ化もされました。原作を大幅に改訂したシナリオで、北海道が重要な役割を果たしています。髙橋さん、ドラマはご覧になりましたか?

髙橋いえ、どうも仕事柄、そういうのはできれば避けて通りたいなという思いがありまして(笑)。1973年に刊行されたこの原作も、もちろん名前は知っていましたが、今回のフルコースづくりのために初めて読みました。

上下巻のボリュームだけでなく文章にも厚みがあって読むのに時間がかかりましたが、この本で一躍日本中に知られるようになった「プレートテクトニクス」に関する専門知識や究極の非常事態に翻弄される人々の描写が、圧巻です。
時の政府は、いざという時のために日本人をいくつかのグループに分けて海外に逃がそうと計画を立てるんですが、それも諸外国との外交上、一筋縄でいかないところなど読みごたえがあります。

書店ナビ執筆は1964年に始まり、完成するまで9年かかったそうなのでその歳月が詰まっているんでしょうね。

髙橋本書には太平洋戦争を経験した世代が現役で物語の中枢に関わっていますが、この規模のことがもし現在に起きたら、私たち戦争を知らない日本人は果たしてこの本の登場人物たちのように動けるのか、考えさせられますね。

ちなみに私が上下巻を読み終えるまでに2週間かかりました。これからお読みになる方は、なんとか頑張って第1章を乗り越えていただきたいです。

書店ナビわかります!私も上巻の終盤から一気にページが進むようになりました。下巻はヒューマンドラマが中心ですので、途中であきらめずにぜひ完走していただきたいです。

現在まちライブラリー@ちとせでは、髙橋さんの「防災本フルコース」を展示中です。そこにはサポーターさんが寄贈してくださった筒井康隆のパロディ本『日本以外全部沈没』も一緒に並んでいます。《肉料理》の「味変」感覚でこちらも合わせてお楽しみください。

たな

手先の器用なスタッフさんがポップを作ってくれた「防災本フルコース」コーナー。

デザート スイーツでコースの余韻を楽しんで

池上彰と考える災害とメディア(1)
池上彰監修  文渓堂
池上彰監修の子ども向けの本で、難しい漢字にはふりがながふられているため小学校高学年くらいのお子さんであれば読めるのではないかと思います。災害時の情報収集について気をつけるべきポイントが分かりやすくまとめられており、大人が読んでも役に立つ内容です。

髙橋2021年に出版された4巻シリーズです。大人は30分くらいあれば、読み切ることができると思います。
今の時代、災害に関する情報は新聞、雑誌、テレビ・ラジオ、インターネットなどいろんなところから入手できますよね。

特にネットの存在が大きいと思いますが、中には感情的な発言や事実を確認しないままシェアされて広まった情報もありますのでいろんな情報元をミックスして、できる限り事実に基づいた判断をしていただけたらと思います。

書店ナビ4巻シリーズの中身は、(1)災害情報とメディアの特徴(2)防災・減災のための災害予測(3)災害から命を守る情報収集(4)復興のためのメディア情報。
一冊が3520円とお高めなのでご家庭で揃えるのは難しくとも、図書館や学校の図書室にリクエストしてもらうといいかもしれませんね。

さぶ

判型もご覧の大きさ。親子で読んでほしい内容です。

ごちそうさまトーク 自分でできる小さなことから始める防災

書店ナビ個人的にもとても勉強になる5タイトルでした。

髙橋防災のことを毎日考えるって実際には気持ちが沈みますし、難しいですよね。今日ご紹介した本も決して「全部読んでください!」というわけではなく、《前菜》や《スープ》どちらかを一冊読んでみるだけでも十分必要な基礎知識が手に入ると思います。
 
まずはご自分でできる小さなことから取り入れて、年に一度の「防災の日」や「防災週間」にまた見直してみる。そういった感覚で防災とつきあっていただけたらと思っています。

書店ナビいつも食べているものをちょっと多めに備蓄する「ローリングストック法」、早速やってみます。「まちライブラリーブックフェスタジャパン2022」とのコラボで実現した「防災本」フルコース、ごちそうさまでした!

 

ページの先頭へもどる

最近の記事