心を揺さぶる一冊との出会いは人生の宝物。書店独自のこだわりやオススメ本を参考に、さあ、書店巡りの旅に出かけてみませんか?
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工藤書店に取材に行くと聞いて事前にネット検索したところ、ヒットしたのが小樽市広報の中の「おたる文学散歩」というページ。
それによると、「…明治36年、小学校の校長を退職した工藤道忠氏が住吉町で工藤書店を開業。…」とあり、花園町へ移転してからは店の二階が「文学青年たちのたまり場」に。きわめつけは伊藤整の自伝的小説「若い詩人の肖像」の中に工藤書店の名前が出てくるという。
「…工藤書店の、少し前のめりになった陳列台からその雑誌を手に取って読みながら考えた。…」(伊藤整「若い詩人の肖像」より)
このように小樽ゆかりの文学史にも名を残す老舗書店を訪ねたところ、「もうね、古いの。古いだけ。それだけの店なの」そういってひたすら恐縮顔の現店主・工藤美喜さん(80歳)が出迎えてくれた。
札幌出身の美喜さんは今から約50年前に創業者・工藤道忠氏の孫にあたる男性との結婚を機に、小樽に移住。店主だった夫が10年前に他界してからは自身が店先に座り、老舗の看板を守り続けている。
「主人は北大の大学院で法学を専攻していましたから、継いだ当初は店にも法律書や経済書をいっぱい並べてね。当時の小樽商科大学にまだ生協がなくて、商大の学生さんがうちのお得意様でしたよ」
ところが年に数回、工藤書店を探してご新規さんが来店する。棚を何段も占める「岩波新書シリーズ」目当てにやってくるのだという。
通常、岩波の本は書店側が買い取る契約のため、在庫を抱えたくない書店は注文に二の足を踏む。だが、そこは読者家の工藤さん、「ほとんど自分の趣味で」シリーズ全作を揃えたところ、一部のお客様に大好評!
創業108年、小樽の歴史とともに歩み、気がつけばまちの一部に溶けこんだ。
「そこにあり続ける」時間を一日でも長く積み重ねてほしい工藤書店である。
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