北海道書店ナビ

第241回 北海道ブックシェアリング

5冊で「いただきます!」フルコース本

書店員が腕によりをかけて選んだワンテーマ5冊のフルコース。
おすすめ本を料理に見立てて、おすすめの順番に。
好奇心がおどりだす「知」のフルコースを召し上がれ

Vol.18 北海道ブックシェアリング 代表 荒井 宏明さん

取材協力:荒井さんが通う江別のコミュニティカフェ「江別港」

[本日のフルコース]
図書館をもっと楽しむための本

[2015.9.28]

書店ナビ 今回、北海道書店ナビがフルコースづくりをお願いした選者は、札幌に拠点がある一般社団法人「北海道ブックシェアリング」代表の荒井さんです。「暮らしに寄り添い、まちづくりに役立ち、心やすらぐような読書環境の整備」を掲げる北海道ブックシェアリングは、東日本大震災で甚大な被害を受けた陸前高田市立図書館にログハウス型仮設図書館を寄贈するなど、北海道にとどまらない活動を展開しています。
荒井 陸前高田市立図書館は現在、本館新設に向けて動いており、私も検討委員会のメンバーとしてお手伝いしています。非常勤講師をしている札幌大谷大学の教え子や札幌大学の学生たち、北海道ブックシェアリングのメンバーたちとも現地に入り、図書館に関する社会調査を行っています。
書店ナビ 海外の図書館にも詳しい荒井さんの「図書館」フルコース、本の解説も大変すばらしいですが、あわせて最新の図書館事情も教えていただきます。それでは、よろしくお願いいたします!

2015年9月13日に江別港で行われた北海道ブックフェスのイベントにご覧の文豪スタイルで参加した荒井さん。ブックバー「人間失格」で文学クイズを出題した。例えば、「東大医学部に脳が保管されている文豪は?」「累計発行部数国内ナンバーワンの絵本は?」む、難しい! ※正解は記事の最後にあります。

[本日のフルコース]
図書館をもっと楽しむための本

前菜 そのテーマの入口となる読みやすい入門書

未来をつくる図書館―ニューヨークからの報告―

未来をつくる図書館―ニューヨークからの報告―
菅谷明子  岩波書店

図書館好きなら、このぐらいのボリューム感が前菜にいいかも。「世界屈指の図書館でありメディアセンターであるニューヨーク公共図書館はNPOが運営している」という内容で、運営方針や経営理念、実務や管理などを詳しく伝えています。さあ、図書館への期待がどんどん膨らんでいきます。

荒井 ニューヨークはマクドナルドより図書館の数が多い。ご存知でしたか?
書店ナビ 初耳です!日本の図書館はひとつの自治体に公立図書館がひとつのイメージだったので驚きです。
荒井 アメリカは個人の図書室を開放するところから図書館が始まったので、私設図書館が基本です。本書のニューヨーク公共図書館も「公共」(Public)と付いていますが、「公立」ではなく私立。さらに3つの中央図書館に加えて目的別にさまざまな分館、ブランチ・ライブラリーが20以上あります。
日本の図書館はハコモノ行政、むこうは民間の名士たちが図書館に寄付をし、運営をサポートする。寄付が“ほどこし”ではなくステイタス、優雅な行為なんです。日本とはそこから考え方が異なります。
書店ナビ 日本の社会にはない“新しい味覚”ですね。勉強になります。

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スープ 興味や好奇心がふくらんでいくおもしろ本

本で人をつなぐ まちライブラリーのつくりかた

本で人をつなぐ まちライブラリーのつくりかた
礒井純充  学芸出版社

さて、“ビッグアップル”のビッグな図書館のボリュームある前菜をたいらげたら、「下町味」のスープでひといき。いま国内の街角に誕生している「マイクロライブラリー」。いたるところで本が借りられるという至福の計画が進行しています。大切なのは工夫と情熱と愛。三位一体のスープを飲み干してください。

荒井 著者の礒井(いそい)さんは「まちライブラリー」の提唱者。大阪府立大学を中心にこの考えを広めています。
書店ナビ まちライブラリーのサイトを見ると、本を置く場所をつくり、皆に本を持ち寄るよう呼びかけて感想を交換し読書会を開くなど本を媒介にしたコミュニティを深めていく試みのようですね。
公式サイトに登録されている北海道のまちライブラリーは宮の森すまいる治療院さんの一件でした。こういう自営のところはオーナーさんイコール管理人だと思いますが、それ以外の場所では貸し借りを見守る管理人は必要ないんでしょうか?
荒井 そこです。基本は無人管理なので人件費がかからない。だから気軽に広められるという利点もありますが、実際のところはやはり管理人がいてほしい。
新しい自転車レンタルの仕組み・サイクルシェアが浸透しつつある「ポロクル」のように、一カ所に集中し過ぎたレンタル自転車、この場合は本ですが、それを元に戻すなどの管理ができれば、まちライブラリーの利便性も高まります。
僕はその管理人役を、定年退職された先生がたに手伝っていただくことはできないかなと考えています。北海道ブックシェアリングでいつか実現したい課題です。
書店ナビ 確かにそれは適役ですね。まちライブラリーに似た動きに地下鉄のメトロ文庫もありますが、実際に使ってみると“勝手に置いていくだけ&勝手に持っていくだけ”でちょっと味気がない(笑)。荒井さんがおっしゃるようにそこには「工夫と情熱と愛」が必要です。

「本を読む人は減ってはいません。紙の新刊が売れてないだけ(笑)。図書館や電子書籍、リサイクルなど本と接触する方法はむしろ広がっています」

魚料理 このテーマにはハズせない《王道》をいただく

困ったときには図書館へ―図書館海援隊の挑戦 

困ったときには図書館へ―図書館海援隊の挑戦  
神代浩  悠光堂

図書館員や図書館司書の新しい挑戦が始まっています。いやアレクサンドリア図書館からこっち、書物に仕え、書物を紐解く人たちに仕えてきた図書館員は常に挑戦者であったともいえます。図書館は、単に本を読むところじゃない。単に本を借りる場所でもないのです。課題を解決し、未来を形づくり、人々のQOLの向上に役立つ場所。それが図書館なのです。

荒井 少し広げて説明させていただくと、本書のタイトルにある「困ったとき」の図書館の役割とは「知識・教養的にわからないときに行く場所」という意味だけではありません。アメリカの図書館ではホームレスの社会復帰プログラムを実地していますし、イギリスの治安の悪い地域では図書館がDV被害者や子どもたちのシェルターのような役割も担っています。
書店ナビ 最近では鎌倉市図書館が8月26日に投稿したTwitter「もうすぐ二学期。学校が始まるのが死ぬほどつらい子は、学校を休んで図書館へいらっしゃい」が話題になりました。
荒井 あれは価値あるつぶやきでしたね。「死ぬほどつらい」のは子どもたちだけでなく、いま図書館で頻繁に貸し出される本の中には「がん」や「離婚」「借金」などの人には知られたくないたぐいの本が山ほどある。amazonが人々に受け入れられているのも、最大の要因はここだと思います。
なので図書館に「困ったときの本コーナー」があるのは、まったくの逆効果(笑)。バラして置くのがやさしさです。
書店ナビ 書店でもたまに、書店員さんに本の場所を聞いたら本人が答えられず、大きい声で「○○○○っていう本、どこにありますかー」と言いふらされてイラッとしたことがあります(笑)。
そのへんの配慮も、本を扱う人共通の認識になればいいですね。

肉料理 がっつりこってり。読みごたえのある決定本

ミレニアム1 ドラゴン・タトゥーの女

知の広場――図書館と自由
アントネッラ・アンニョリ  みすず書房

さあ、頭は十分ほぐれたね! 情熱もふつふつ湧いている。図書館への愛があふれている頃合いだ。で、このヘビーな「知性への提言」をかみ締め、飲み込み、栄養にする準備ができたなら、さっそくナイフとフォークを取り、未来志向の思いをがっつり受け止めよう。

荒井 これはちょっと難しめの本ですが、知性というものが今後図書館でどのように扱われていくべきかという題材について書かれています。
日本のすべての公的図書館に「自由に関する宣言」が貼られているのを見たことがありませんか? 公的施設でこういう宣言をしているのは唯一、図書館だけなんです。
書店ナビ 知りませんでした…!

社団法人日本図書館協会が無料配布している「図書館の自由に関する宣言」ポスター

荒井 これは戦前、図書館が国の思想機関として働いてしまったという深い反省、重い十字架を背負っているところから生まれた宣言です。二度とそうなるまいと自分たちに言い聞かせている。図書館は市民自治の拠点のひとつであることを、私たちも忘れないでいたいです。

デザート スイーツでコースの余韻を楽しんで

特捜部Q ―檻の中の女―

鞄図書館(1)
芳崎 せいむ  東京創元社

主人公は中年(初老?)の男と鞄という見栄え的には地味な設定だが、人と本との奇想天外な関わりを一話一話、滋味に富んだタッチで描いていく。ああ、こういう図書館がこの世のどこかで存在しているというなら、明日を生きる楽しみがあるかも。しみじみ味わえます。

荒井 男が持っている鞄が実は四次元ポケットのように大きくて、男は借り手とともに鞄の中、つまり鞄図書館に入ってお目当ての本を探すというコミックです。「どんな本でも見つかる」鞄と、司書である男のかけあいも面白い。
書店ナビ 「中」に入ってみたいです、鞄図書館。
荒井 一話完結で読みやすいですし、いいエピソードがたくさん詰まっている大人のコミックです。

ごちそうさまトーク まちづくりに重要な新・図書館像

書店ナビ 荒井さんのお話をうかがっていると、私たちが知っている図書館の役割が大きく変わりつつあるのを感じます。
荒井 特に3.11以降の東北では、本を借りなくとも誰かと話をする、あるいは誰かに会いに来る場として機能していたり、予防医学の啓蒙や就労支援、「女川つながる図書館」のようにまちの観光拠点として動き出しているところも出てきました。
図書館はもっと人の生活に役立てる場になれる。そう信じています。
書店ナビ 荒井さんが一番好きな図書館はどこですか?
荒井 石狩市民図書館です。早くから「おはなし会」に熱心に取り組んでいましたし、いまでは地元の野菜直売コーナーも設けている。ICタグが付いた自動貸し出しの導入が早かったのも、なにも職員がラクをしようと思ったからではなく、先ほどお話した利用者さんのプライバシーを配慮してのことです。
あと、図書館には珍しく“西側に窓がある”ところもすごいと思います。通常は西日があたって本が焼けてしまうのを嫌うところが多いんですが、石狩市民図書館の方は笑って「うちは皆さんが借りてくれるので(本が)焼けるヒマがありません」という。実に気持ちのいい話です。
書店ナビ 本と利用者さんと図書館の輪があたたかく回っているのを感じますね。図書館にまつわるいろんな話を吸収できたフルコース、ごちそうさまでした!

●北海道ブックシェアリング http://ameblo.jp/booksharing/

●荒井さんが考えた文学クイズの答え合わせ
「東大医学部に脳が保管されている文豪は?」答え:夏目漱石
「累計発行部数国内ナンバーワンの絵本は?」答え:松谷みよ子作『いないいないばあ』

書店川柳

台車なら ぼくは A級ライセンス

元書店員の荒井さんだからこそ、渋いところをついてくる。どっさり積んだ雑誌を載せて、狭いバックヤードもすーいすい。既刊本の『書店員あるある』には「ぎっくり腰で動けなくなった店員を台車に乗せて病院へ運ぶ」なんていうハードな台車ネタもあるようだ。

2015年5月から北海道書店ナビは書店員さんにお願いしています、「お好きなフルコースを作ってみませんか?」と。素材はもちろん皆さんが愛する本を使って。

《前菜》となる入門書から《デザート》として余韻を楽しむ一冊まで、フルコースの組み立て方もご本人次第。

読者の皆さまに、ひとつのテーマをたっぷりと味わいつくせる読書の喜びを提供します。

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