北海道書店ナビ 第105回 十字屋書店
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心を揺さぶる一冊との出会いは人生の宝物。書店独自のこだわりやオススメ本を参考に、さあ、書店巡りの旅に出かけてみませんか?
連載3年目に入った北海道書店ナビ。2013年の更新は札幌の隣、当別町が舞台。まちでたった一軒の本屋さん「十字屋書店」から始めたい。書店ナビはお盆や年末年始を除いて毎週月曜更新です。本年もよろしくお願いいたします!【2013.01.7】
[youtube:http://www.youtube.com/watch?v=lCfEScLeqp4]
昨年秋、北海道書店商業組合の理事長であるくすみ書房の久住さんにお話を聞いたところ、全道約180市町村のうち地元に書店がない市町村が3分の1にまで増えたという。
人口約1万8千人の当別町がその「3分の1」組に入るまいとふんばっていられるのは、まちでただ一軒の専門書店「十字屋書店」があるからだ。
今から37年前、店主の秋場信一さんが地元待望の専門書店をオープン。書店文化の灯火を掲げた道のりが今日も続いている。
背の高いコンクリート製の柱に店名を刻む十字屋書店は、こじんまりとした30坪。店の背後に中庭があり、奥様が営む隣の「ライズカフェ」と従業員専用廊下でつながっていた。「オープン当時、まだ日本では珍しかったブックカフェのイメージでやりたかったんだよね」。
小さい店は雑誌とコミック、文庫が主役。小学生中学生がおこづかいで買う人気雑誌やコンビニでは種類が少ないカー雑誌などの専門誌が売れて行く。文芸・人文系の納品数や入荷速度は大手にかなわない。その分、取り寄せの客注に対して「利益は棚上げ」の覚悟でのぞむのが「十字屋」流だ。全道の書店を探しまわり、手に入れた1冊をお客様に渡す瞬間が本屋冥利に尽きると秋場さんはいう。
秋場さんの粘りを表すこんなエピソードがある。デアゴスティーニのあるシリーズを買い続ける男性客がいた。20号くらいまで買い進んだとき、ぱたりと店に来なくなった。それでも続巻の発売はどんどん進み、このままでは発売だけでなく製造終了の期限も来てしまう…このとき秋場さんがとった行動は、なんの約束もしていないバックナンバーをひたすらストックし続けていくこと。地元の人脈を通じて「残り60巻近くは取り置きしてあるので欲しいときはいつでもご来店を」と男性客にメッセージを届けた。
それから一年半後、男性客はやってきた。「まさかもうないですよね…」「ありますよ」「ええっ!」男性はその場ですべての料金を払い、感激した面持ちで帰っていったという。
この「大手にできないことをやる」姿勢こそが地元の信頼を集める十字屋書店最大の強み。商工会にも所属し当別の未来を想う秋場さんの熱い心意気が小さな30坪に詰まっている。
Store picture
「地元の本屋の役目は絵本を置くこと。子育ての助けになれたら」と秋葉さん。
地元サークル「当別文芸の会」発行の同人誌も応援中!
Basic information
【 住 所 】石狩郡当別町弥生2−4
【 電 話 番 号】0133-23-2316
【 営 業 時 間】AM10:00 – PM11:00
【 定 休 日 】元旦以外、年中無休
秋場店長がセレクト!3冊のおすすめ本
1)百田尚樹著「海賊とよばれた男」(講談社)
もうあちこちで激賞の声が聞こえていますが、『永遠の0』の作者百田尚樹が描く本作の主人公は出光興産の創始者、出光佐三がモデル。
イランが親日国である理由がこの本を読めば納得がいきます。「社員は家族」とはどこの経営者も口にする決まり文句ですが、主人公のように有言実行を貫ける経営者は何人いるのか。会社の、日本人のアイデンティティーについて考えさせられる大作です。
2)社団法人全国有料老人ホーム協会著「シルバー川柳」(ポプラ社)
社団法人全国有料老人ホーム協会が出している川柳集。親が年をとってくると、こういうのについ手が伸びますね。ちょっとシモネタで恐縮ですが、例えばこれ。「深刻は/情報漏れより/尿の漏れ」。シルバー世代にしかたどりつけない境地に思わず笑っちゃいました。
魅力的な装丁本)「原宿ゴローズ大全 vol.1」(ワールドフォトプレス)
goro’s(ゴローズ)とは、インディアンジュエリーの国内第一人者、高橋吾郎さんのショップブランドのこと。ゴローさんはアメリカに渡ってインディオからシルバー彫金の技と心を学び、36歳のときにスー族から「イエローイーグル」というインディアンネームをもらった、おそらく日本で初めての人。木村拓哉や岩城滉一からも愛されるゴローズの世界観を知るには格好のビジュアルムック本です。