創刊をけん引した編集長の星野恵さんにお話をうかがった。
[2018.12.3]
初の雪国暮らしは「冬用に服がいる?」驚きの連続!
本や出版の”地方あるある”で「新刊の販売が2日遅れる」というのは、経験済みの人も多いかもしれない。
ここ北海道ではもうひとつ、「東京で出しているファッション誌の春夏・秋冬ファッションが自分たちの実状にまるであわない」という女性たちの不満が長年くすぶっていた。
「秋冬を楽しむ今年のトレンドはこれ!」なんていう特集記事を読んでも雪が降れば防寒最優先の服選びになり、足元は「裏を貼った」靴オンリー。
こうした冬装備が自分一人だけならまだしも、もしこれが子育て中のママさんなら? 友達や親類縁者もいない北海道で暮らすのが初めてだとしたら?
2011年に夫の転勤で札幌に越してきた星野恵さんが直面したのは、まさこの状態。大分生まれの福岡育ち、生粋の九州女である星野さんにとって、初の北国暮らしはクエスチョンマークの連続だった。
引っ越し当時は1歳だった長女を連れ、現在は1男3女の母親である星野さん。
「今までは秋冬兼用だった洋服も、冬用に新しく買わなきゃならないことにまず驚きました」
靴底のことを注意してくれる人がいても、カバンは雪が入ってこないようにジッパー付きがいいこと、フードはデザイン上の飾りではなく実際に使うので大きすぎても小さすぎてもダメなこと、ママが手袋をして子どもをだっこするとき、ツルツルした素材のベビー用アウターだと容易に滑り落ちてしまうこと……知りたいことは山ほどあるのに全国誌にはどこにも載っていない!
一人一人が体得してきた雪国ファッションの智慧はあるはずだ。だが、それをどこでどうやって共有すればいいのだろう? みんな、困ってはいないのだろうか?
そんな疑問を2017年11月にFacebookで吐露したところ、「実は私もそう思っていた!」という女性たちの声が続々集まった。
そこから浮かび上がってきたのが「雪国専門のファッション誌」を自分たちで作ることーー。星野さんたちの挑戦が始まった。
クラウドファンディングで資金を集め、全員体制で制作
星野さんの疑問に反応したのは、札幌市近郊や函館・室蘭に住む20~40代の女性30人。「雪国専門のファッション誌プロジェクト」が立ち上がり、2018年7月には目標額100万円の創刊資金を募るクラウドファンディングをスタート。
道内外193名の支持者から134万円の支援を受けるという好発進で、創刊準備を進めていった。
だが、「絶対簡単じゃないことはわかっていたんです」ーーそう言う星野さん自身、雑誌作りの経験はゼロ。保険会社の営業を辞めてから個人向け能力開発コンサルタントを始めるかたわら、子育て相互支援団体「かえりん」を立ち上げ、幅広いネットワークを持っていても、雑誌作りとなると勢いだけでは実現は難しい。
知人の紹介で編集プロダクションから制作・編集のいろはを学び、SNSやリアル会議を積み重ねてメンバー内の役割分担をしていったという。
「広告営業は私で、モデルのスタイリングや服の手配はアパレル関係のメンバーに頼み、ヘアメイクは美容師のメンバーが担当。もちろんモデルもメンバーが務めました」(誌面にはモデルの職業も掲載されている)。
要となる誌面のデザイン制作は素人には難しい。経験者を見つけ、依頼した。
無論、ビギナー集団ならではのピンチもあった。当初の発刊予定は2018年9月13日だったが、校了間近になってモデルに手袋を着用させるのを忘れてしまったことに気づくなど、誌面のクオリティー全般に納得がいかない。
悩んだ末に星野さんたちは「創刊することがだけが目的じゃないはず」と創刊延期を決意し、誌面も大幅に作り替えた。
その後、まさかの北海道胆振東部地震が9月6日に発生し、暖冬続きの天候を考えると、北海道が落ちついた冬を迎える10月29日の創刊はまさに怪我の功名。
プロジェクトメンバー30名が力を結集した雪国専門ファッション誌「Swgスワガー」が誕生した。
雪国専門ファション誌「Swg」
発行 Key planning 定価500円
誌名の「Swagger」は「闊歩する」の英語。雪国でもオシャレをあきらめずにいきいきと歩く女性たちが増えてほしいという願いをこめた。道内の主要書店やネットショップ「BASE」で好評売中!
奥付のメンバー紹介もたっぷり1ページを割いた。英字クレジットをよく見ると「stagemama」や「kiranikosmilemama」など遊びが潜んでいる。
誌面はモデルたちの私物による純粋なスタイリング提案もあれば、札幌市桑園のセレクトショップ「JOJO et NONO」おすすめコートも紹介されている。
道外からの転入者にはうれしい「冬の足元4つのポイント」情報。札幌の靴・雑貨専門店「attraction」を取材した。
ベイビー・キッズスタイルもしっかりカバー。「中に雪が入ってこないように」「外遊びに使うものには防水スプレーが必須!」など全国誌には出てこない表現で読者に寄り添った。
整理収納フルコースを作ってくれた札幌の整理収納アドバイザー竹部礼子さんも登場。
創刊号の2000部は一部クラウドファンディング支持者へのリターンに分配され、メディアの後押しもあって順調に売れている。
「この本が出来てから何度”おかげさまで”と言ったかわからない」という編集長の星野さん。
「関わってくれたメンバー全員が今後自分の経歴に”雑誌創刊”と書ける。人生の新しい1ページとなる経験を味わうことができました。全ての願いは行動すれば叶えることができるーーこの精神で、これからも困っているところをリアルに解剖していく企画を考えていきたいです」
すでに「男性のためのページもあったらいい」という新たなリクエストも届いている。次号は2019年の春夏号発刊を目指す。
●雪国専門ファッション誌Swg
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