北海道書店ナビ

第599回 BOOKニュース 本のヌード展レポート

カバーをはずして盛り上がるブックフェア
「本のヌード展」at 三省堂書店札幌店
トーク参加者が発掘した本のヌード本12冊を一挙公開!

フェア棚

フェア棚の本はどれも選者のコメント付き。札幌開催では地元出版社も参加し、力の入った自社本を推してきた。

[2024.4.8]

[今週の一枚]

今週の一枚

紀伊國屋書店札幌店のひそかなロングセラー『カラスの常識』(寺子屋新書)が同店だけで売上4000部に到達(2024年2月25日撮影)。札幌人はどうしてカラスについて知りたがるのか、いつか取材してみたい。

「本のヌード展」三省堂書店札幌店で4月9日まで好評開催中!

カバーと表紙のデザインのギャップを楽しむブックフェア「本のヌード展」が、三省堂書店札幌店で2024年4月9日火曜まで開催中だ。

札幌出身で現在は関西を拠点に活動する編集者、末澤寧史さんが発案した「本のヌード展」は、2018年から大阪の書店「本は人生のおやつです!!」を皮切りにスタート。
以降、奈良県立図書情報館や京都の商業施設、富山市立図書館と続き、今回の三省堂書店で5回目。北海道初上陸を果たした。

入手しやすいタイトルをピックアップ

末澤さんが集めた選書リストをもとに店が入手しやすいタイトルをピックアップ。完売や再入荷した本もあるという。

3月30日には末澤さんのトークイベントを開催。書店員や出版社、デザイナーなどブックデザインに関心を持つ人たちが集まった。
「本のヌード展は、皆さんにもっと気軽に本に触ってもらいたくて始めた企画です。読書普及が目的なので、本屋さんでも図書館でもご自分たちで自由に本のヌード展を開いてもらいたい。選者コメントをポップに使っていただいてもOKです」(末澤さん)

今回の札幌開催は、2020年に札幌の出版社有志が企画した全国の個性派出版社を紹介するブックフェア「ヨマサル市」がきっかけ。
このフェアを担当し、末澤さんが立ち上げた出版社「どく社」の存在を知った三省堂書店札幌店の工藤志昇さんは、その後2022年に設立年数の若い独立系出版を履歴書形式で紹介する「新人出版社の履歴書フェア」を企画。好評を博した。

「新人出版社の履歴書」フェア。

「新人出版社の履歴書」フェア。出版社が記入した履歴書を冊子にまとめて無料配布した。「どく社」がB05-01最上段にいる。

求ム!本のヌード展道内開催byフェア担当者

このとき工藤さんは書店員からの一言欄に「求ム!本のヌード展道内開催byフェア担当者」と記入。2年後の今年、それを実現した。

利尻島から流れ流れて本屋になった

利尻島から流れ流れて本屋になった
工藤志昇  寿郎社
書店は、故郷だ――。ゴールの見えない多忙で多様な仕事と、ふとした拍子に思い起こされる大切な記憶――。絶景・絶品の島、利尻島出身の三省堂書店札幌店係長による最北の風味豊かなエッセイ集。この工藤さん初のエッセイ集も実は「本のヌード本」。ぜひカバーの下を確かめてほしい。


一般に出版業界ではカバーをめくった本体の表裏に使われる用紙のことを「表紙」と呼んでいる。
ではどうしてカバーと表紙のデザインが異なるヌード本があるのだろうか。
「カバーデザインは売れ行きに直結するので、著者や編集部の意向だけではなく、営業担当者の厳しいチェックが入ります。一方、表紙デザインはカバーで隠れるからか、自由に作れることが多いと聞きます」と末澤さん。
よくある話では、カバーデザインでは不採用となったが捨てがたい案を表紙で復活させることも。
いずれにしても装丁で「ジャケ買い」する読者がいることを思うと、本というモノにおいてカバー&表紙デザインがどれだけ重要かが見えてくる。

右が「本のヌード展」発案者の末澤寧史さん。進

右の男性が「本のヌード展」発案者の末澤寧史さん。進行は書店ナビのライター佐藤優子でした。

参加型トークイベントで新たなヌード本を続々発掘!

トークイベントは書店イベントには珍しい参加型。トーク前半が終わると約10分間、参加者は店内を自由に探索。席に戻ってから自分が見つけた「本のヌード本」を皆に披露した。
末澤さんも一緒に探してみたが「これという本をうまく見つけられませんでした。ところが、イベントには札幌有数の本のヌード通の方々が参加してくださっていたようで、集まったのはどれも素敵な本のヌード本ばかり。とても盛り上がりました。参加されたみなさんも、会場が熱を帯びていくのを体感されたのではないでしょうか」

この盛り上がりを受けて三省堂書店は、参加者が選んだ本をフェア棚に加えてさらにフェアが充実するという理想の展開に。

ここから先は、札幌版「本のヌード展」トークイベント参加者が発掘した本のヌード本全12冊を一挙公開!
カバーとカバーを外した表紙、両者のギャップを楽しんでいただきたい。

中の表紙イラストがのぞける仕掛け

カバーの表と背に丸い穴が空いていて、中の表紙イラストがのぞける仕掛けに。背にも穴が空いているところが珍しい。

人気作家のヨシタケシンスケさん

人気作家のヨシタケシンスケさん。打ち合わせ中は言葉数が少なめだが、仕事以外のことになると途端に饒舌に!その光景を装丁で楽しく再現。

日替わりで楽しめる広告コピー本

日替わりで楽しめる広告コピー本はプレゼントにも最適!表紙のカレンダーは相手の誕生日や記念日にマルをつけて贈れるようにという小粋な演出に一役買っている。

白いカバーを外すと真っ黒な表紙

白いカバーを外すと真っ黒な表紙。よく見ると何か汚れのようなものがついている?いえいえ、その正体はもう一度カバーを見ると…

カバーの下には本書にはない犬マスターのお仕事イラストが

犬がマスターを務める不思議なバーで美味しい一杯と一遍の詩を味わう。カバーの下には本書にはない犬マスターのお仕事イラストが。

地球に不時着した宇宙人が職業相談所

地球に不時着した宇宙人が職業相談所に。しごとさがしは自分さがし。あなたもしごとを思いついたらこの表紙に書いてみよう!

カバーからも十分楽しげな雰囲気が伝わってくる現代アート入門本

カバーからも十分楽しげな雰囲気が伝わってくる現代アート入門本。「カバーの下まで見てくれてありがとう!」

帯も重要な装丁の一部。

帯も重要な装丁の一部。近年は帯兼カバーやダブルカバーが増加。表紙で本質を表現し、帯やカバーで時代性を盛り込み興味を喚起する。

カバーと表紙のギャップを味わう「本のヌード」のお手本のような一冊

カバーと表紙のギャップを味わう「本のヌード」のお手本のような一冊。「谷崎潤一郎や夏目漱石など装丁にこだわった文豪もいます」(末澤さん)

「言われてみれば…!」と思わされる書名にふさわしいカバーデザイン

「言われてみれば…!」と思わされる書名にふさわしいカバーデザイン。裏表紙の猫の中にはさらに猫がいて…最後が「チュウー」!

カバーをめくると案外大人っぽいデザインが隠されています

ポップな表紙が多いですが

この2冊は同じ選者さん。「YA作品は10代の読者層にうったえるためイラストを使ったポップな表紙が多いですが、カバーをめくると案外大人っぽいデザインが隠されています」と教えてくれた。

「気づきのタネ」を丁寧に育てて企画に結実

本のカバーと表紙に着目し、既刊本にも再び光を当てる「本のヌード展」。最後は末澤さんと三省堂の工藤さんにいただいたコメントで締めくくりたい。

「こういう読者参加型の形式は、実は札幌が初めての試み。すごく楽しかったのでまたぜひやってみたいです。夢はいつか温泉地で本のヌード展を開くこと。自分たちも本のヌード展をやってみたいという方はお気軽にお問い合わせください」(末澤さん)

「トークイベントの後、参加者のおひとりが「もう文庫化されているし、単行本はもう手に入らないかもしれないけど…」とことわりつ、私に1冊の本を紹介してくださいました。
谷村志穂『シュークリアの海』(講談社、1999年刊)。
あらすじとそれに深く関わっている表紙デザインについて聞いているうちに「今、鳥肌がたっちゃいましたよ!」とお伝えしたら、「そうでしょう!」と満面の笑みを浮かべていらっしゃいました。

書店員として毎日多くの本と対峙していても、実際に中身のことまで把握できているのはその中のごく一部です。
振り返ると、これまで私が企画してきたフェアやイベントはすべてと言っていいほど、出版に携わる方々や来店される多くのお客さまによって与えられた「気づきのタネ」が基になっています。
そのタネを、丁寧に丁寧に育てて、一つの企画として売場でお見せすることも書店員の大切な仕事の一つだと、最近はつくづく感じます。

「ヨマサル市」で末澤さんと出会い、「新人出版社の履歴書フェア」で拾ったタネが、「本のヌード展」へと実を結びました。
おそらく『シュークリアの海』が繋いでくれたお客さまとのエピソードも、いつか想像できない何かへと形を変えて、書店に姿を現すのでしょう。
そんなことを考えていると、いつまでもワクワクが消えることはありません」(三省堂書店札幌店 工藤さん)

末澤寧史のオフィシャルサイト「本の人」honnohito.jp

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