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第311回 まんだらけ札幌店 店長 大井 健一朗さん



5冊で「いただきます!」フルコース本

書店員や出版・書籍関係者が
腕によりをかけて選んだワンテーマ5冊のフルコース。
おすすめ本を料理に見立てて、おすすめの順番に。
好奇心がおどりだす「知」のフルコースを召し上がれ

Vol.78 まんだらけ札幌店 店長 大井 健一朗さん

少年ジャンプの創刊号を持つ大井店長。1968年に発刊された創刊号の買取価格は「いまでしたら4万円かな」。


[本日のフルコース]
まんだらけの店長だから作れる特別メニュー!
「週刊少年ジャンプ”黄金”タイトル新連載号」フルコース

[2017.2.13]






書店ナビ 札幌在住の漫画家、工藤正樹さんのご紹介で、まんだらけ札幌店の大井健一朗店長にフルコースづくりをお願いしました。
まんだらけさんといえば、売り手も納得できる買取査定価格に定評があります。
大井 お客様が一度は思い入れを持って読まれた商品を買い取らせていただくときは、やはりその思い入れに共感した接客や査定で応えたい。
査定価格は在庫の数やタイミングなどいろいろな条件を考慮してのものなのでご要望に100%応えられない場合もありますが、”できるかぎりの努力はしたい”というのが僕ら札幌店のモットーです。
価値のある漫画文化を次代に継承するという意味でも、ぜひ当店をご利用いただけたら、そう願って今回は皆さんにとって身近であり、もしかしたらご実家などに眠っている可能性がある「週刊少年ジャンプ」の人気作品の新連載号でフルコースを作ってみました。
書店ナビ “ジャンプ黄金期”を知る取材班3人にとっても仕事であることを忘れてしまいそうなおもしろテーマです。早速、解説をお願いします!


[本日のフルコース]
まんだらけの店長だから作れる特別メニュー!
「週刊少年ジャンプ”黄金”タイトル新連載号」フルコース


前菜 そのテーマの入口となる読みやすい入門書

週刊少年ジャンプ1979年22号『キン肉マン』
ゆでたまご  集英社(出版社以下同じ)

「ゆでたまご」は、嶋田隆司さんと中井義則さんの共同ペンネーム。お二人は1978年に『キン肉マン』で第9回赤塚賞準入選。『週刊少年ジャンプ』1979年2月号に読み切りが掲載され、その翌年から本格的な連載が始まりました。


書店ナビ いきなり衝撃を受けました。表紙に載っているキン肉マンの顔が緑色? 肌色じゃない!最初は緑色の設定だったんですか?
大井 これね、実はゆでたまご先生じゃない他の人が描いているんです。彼らは当時まだ新人でしたから、ジャンプの表紙を描かせるわけにはいかず、キン肉マンがどういうものか知らない人が不十分な情報だけで表紙に描いたという、いまではとても考えられないことがあったようです(笑)。
書店ナビ そう言われると、手前のビルやヤシの木もどこかテキトウっぽく見えてきました。
そんな摩訶不思議な連載スタートにも関わらず、『キン肉マン』はその後アニメやグッズにも発展し、日本中に一大旋風を巻き起こしました。
大井 ウルトラマンのパロディから徐々にギャグ路線に方向性を定め、プロレスブームにうまく乗れたこともヒットの要因だったと思います。
なにより、テリーマンやロビンマスクなどライバルたちが非常に魅力的だった。これもヒットには欠かせない要素です。
当店でいま買い取るとしたら7000~8000円になります(以降、買取価格はすべて2017年1月末現在の参考価格です)。



スープ 興味や好奇心がふくらんでいくおもしろ本

週刊少年ジャンプ1985年1&2合併号『聖闘士星矢』
車田正美  

主人公は女神アテナに仕え、悪と闘う聖闘士(セイント)たち。ギリシア神話を取り入れたストーリーや星座をモチーフにした戦闘装備「聖衣(クロス)」が少年少女の心をつかみ、フィギュアやゲームも発売されました。



書店ナビ パソコンで「セイント」と打つと「聖闘士」と出るだけでもこの作品の影響がはかりしれますが、『リングにかけろ』でジャンプの看板作家となった作者がさらに繰り出した小宇宙(コスモ)レベルのヒット作がこの「聖闘士星矢」です。
大井 BL的な二次創作にも影響を与えて女性ファンを掴んだことは大きかったと思います。アニメもヒットしましたし。「聖闘士聖衣大系」から始まったアクションフィギュアシリーズは現在も続いている人気商品です。
私個人としてはアクエリアス(水瓶座)のカミュが好きだったので「黄金聖衣(ゴールドクロス)」のコスプレをしたいですね。
少しマジメな話をすると、札幌観光にいらした海外のお客様の中には、まんだらけ目的で観光に来られる方も多いです。
その方々の中には『聖闘士聖矢』の限定フィギュアを求めてご来店され、まとめて購入される事も多くコレクターレベルはとても高いですね。
というわけで海外ファンも多い『聖闘士聖矢』連載号の買取価格は5000円~ですね。

「新連載開始号と最終回掲載号どちらの買取価格が高いか、ですか?最終回は『Dr.スランプ』のように惜しまれてやめるものは極少数派で、大抵は人気が落ちてひっそりと終わる…やはり勢いがある新連載号のほうを高く査定する傾向にあります」





魚料理 このテーマにはハズせない《王道》をいただく

週刊少年ジャンプ1990年42号『スラムダンク』
井上雄彦

今回のフルコース中、唯一ジャンプ上で最終回を迎えている作品(他は新シリーズやスピンオフが現在も続いています)、全276話です。2006年には本作品の印税の一部を原資とする「スラムダンク奨学金」を井上先生が創設しました。





大井 本作の前にもバスケ漫画といえば「ダッシュ勝平」がありましたが、画力やストーリー、ディテールを含めてこれだけ本格的なものはなかった、と断言してもいいと思います。
主人公の桜木花道と”終生のライバル”流川楓の関係も、最後までなれあいがなくてよかった。その二人の間を埋めるキャラクターも皆いきいきと描かれていました。
書店ナビ 名台詞も多かったですね。三井の「バスケがしたいです……」とか。
大井 僕は安西先生でいうともうひとつ忘れられない場面があって、かつての教え子・谷沢に向けた独白「お前を超える逸材がここにいるのだ……!!」の場面が好きでした。
いまでは世界中にファンがいる井上先生ですが、実はこの「スラダン」連載開始号を買い取るとしたら3000円くらい。というのも、この頃のジャンプは500万部を超える発行部数で世に出回っている数が多いんです。
書店ナビ なるほど!作品の質や人気だけでなく、本自体の稀少性も買取価格に反映されるんですね。勉強になりました。




肉料理 がっつりこってり。読みごたえのある決定本

週刊少年ジャンプ1984年51号『ドラゴンボール』
鳥山明

世界に日本のMANGAを知らしめた作品。ゲーム化も幅広く、2016年に配信されたスマホアプリ『ドラゴンボールZ ドッカンバトル』は全世界1億2800万DLを突破という、日本マンガ史上未踏の記録をひたすら更新中。







大井 売れっ子作家になればなるほど、新連載が始まるときに表紙を独占できる、“そのキャラクターだけ”が表紙に描かれるというのがジャンプ新連載の原則です。
この『ドラゴンボール』は『Dr.スランプ』連載終了後わずか3カ月後に始まり、さすがに鳥山先生もお疲れだったんでしょう、最初は地味なストーリーでそれほど人気がなかったんですが、天下一武道会あたりから一気に火がつきました。
鳥山作品はキャラクター設定、絵柄、ストーリーがどれも別格のハイクオリティー。今も鳥山先生が原作・原案で作画はとよたろう先生が描かれている『ドラゴンボール超』(ドラゴンボールスーパー)が月刊『Vジャンプ』で連載されています。
日本が世界に誇る作品の新連載開始号、買取価格は2万円でしょうか。

ドラゴンボールの記念すべき連載1ページ目!対向には鳥山明が好きなホンダシティのプラモデル広告が。





デザート スイーツでコースの余韻を楽しんで

週刊少年ジャンプ1987年1&2合併号『ジョジョの奇妙な冒険』(写真右)
荒木飛呂彦

2005年から月刊『ウルトラジャンプ』に場所を変えましたが、ジョジョシリーズは現在も継続中!シリーズの累計発行部数が1億円を突破。2017年に誕生30周年を迎え、第4部の実写映画公開などまだまだ盛り上がっていきそうです。




書店ナビ 現在は東方定助(Part4の主人公とは別人)を主人公とする第8部「ジョジョリオン」が連載中ですが、大井店長はどのシリーズがお好きでしたか?
大井 これをいうと案外驚かれるんですが、第5部「黄金の風」が好きでした。単行本でいうと47巻から63巻。ディオの息子ジョルノ・ジョヴァーナがジョジョとして活躍します。敵のマフィアもかっこいいんですよね。
シリーズが一気に知られるようになったのは、第3部で「幽波紋」(スタンド)が出てきてから。独特の効果音やスタイリッシュさで海外でも注目され、GUCCIとのコラボなんかもジョジョにしかできないことだと思います。
新連載号を買い取るなら5000~7000円かな。

ごちそうさまトーク マンガは作家と読者の共同作業


書店ナビ まんだらけ札幌店には月に3、4回イベントを行うまんだらけホールもあるんですね。
大井 ええ、コスプレ撮影会もあり、スタッフも楽しみにしています。当店のスタッフのなかには漫画を描いているコもいて、バイトのかたわら執筆に頑張っています。

人気のコスプレコーナー。ちなみに先日大井店長が扮したのは「ハンターハンター」幻影旅団の団長。



スタッフおすすめの棚もそれぞれの作品紹介が熱い!お買い得なセット買いの棚もある。



札幌在住の漫画家工藤正樹さんの作品集『現代恐怖館』も好評発売中!




書店ナビ それにしても今回の少年ジャンプ新連載フルコース、まさに後世に残る”黄金タイトル”ばかりですね。
大井 こんなハイレベルの週刊マンガを毎週読めていたことに驚きますよね。でも実はどの作品も最初からダントツの人気があったわけではなく、ちょっとしたきっかけや新キャラの登場で読者の支持が高まっていった。
マンガは作家と読者双方の共同作業でレベルを高めていくものだということを教えてくれる黄金タイトルでもあります。

僕にとってマンガは人生そのもの。大切なことはすべてマンガから教わりました。
仕事柄過去の児童誌学年誌も読み漁りますが「この先生は若い頃こんなところにも描いていた!」という発見もマンガ売りの醍醐味です。
単行本になっていない作品を発見した時はお宝を発見した感覚です。マンガへの思いは年々濃くなるばかりです。
書店ナビ お話をうかがって、いま猛烈にマンガが読みたいです!! ジャンプ世代の心に再びマンガ愛をかき立ててくれるフルコース、ごちそうさまでした!


●まんだらけ札幌店 http://mandarake.co.jp/shop/spr/index.html
北海道札幌市中央区南3条西5丁目1-1 NORBESAビル2F
TEL.011-207-7773
12:00~20:00 年中無休

●大井健一朗さん 
札幌出身。16歳のときから古本屋や書店でアルバイトをし、一時異業種を経験するも「やっぱり本が恋しくて」株式会社まんだらけ本社に入社。札幌店店長として勤務13年目。
2児の父でもあり、「下の子はミニ四駆、上のおねえちゃんはアニメ好きです」














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