北海道書店ナビ

第418回 かの書房



飲食店を改装した店は8坪。加納あすかさんによるひとり本屋さんの始まりだ。

[応援企画]札幌にちいさな新刊書店ができるまで
祝福の花に囲まれて「かの書房」《念願のオープン編》

[2018.9.10]

《スタートアップ前編》はこちら!

www.syoten-navi.com

資金難を乗り越えて3月18日は開店記念日

「こちら、かの書房さんですか? お花のお届けにあがりました!」
とうとう、この日がやってきた。2019年3月18日月曜日。札幌市豊平区美園に看板を掲げた「かの書房」開店の当日である。

昨年の夏から追っかけ記事を書き続けてきた北海道書店ナビが店に到着したのは、お昼ごろ。その時点で店の中央にある平台の白テーブルは「小学一年生」や「コロコロコミック」、そして開店祝いの花でいっぱい!

贈り主は取引先ばかりではない。加盟したばかりの豊平区商店街や店主の加納あすかさんが生まれ育った上士幌町時代にお世話になった先生、「かの書房」の「推し作家」たち……。
そのなかでも加納さんが「これ、見てください!」とひときわうれしそうに紹介してくれたのは、かつての勤め先だった「あすか書房」の先輩たちからのアレンジフラワー。
「辞めてから一度も連絡を取っていなかったのに、何かで見てくれたんでしょうか。しかも三人の連名で。めちゃくちゃうれしいです!」
そう話を聞いている最中にもまたひとつ、出版社からの花が到着した。

出版不況のいま、無謀とも言われたひとり本屋さんに挑む加納さんの門出を、大勢の人々が祝福している。

教え子のチャレンジを応援する先生からのメッセージがあたたかい。

資金難で開店日を延長したこともあったが、これまでの取材で一番いい笑顔だった加納さん。書店に立てるのがうれしくてたまらない。

すっとび娘を見守る”かのママ”もお手伝い

“去年の今頃は何をしていましたか?”の問いには、「あすか書房が店をたたんだので無職になって、確か、大手書店の面接を受けるところだったと思います」と、記憶をたどる加納さん。
採用されたものの、納品・返本に追われる大手のシステムが肌にあわず、そこから「自分で本屋さんを開く!」決意が固まった。

それを聞いて驚いたのは、上士幌町で暮らす母親のひとみさんだ。
「このコは私の母、おばあちゃんにそっくりで、こうと決めたらまっすぐに突き進む”すっとび娘”(笑)。もちろん心配はしましたが、本人が信じる道をいきたいと言うのだからあとは見守るだけですよね。やらない後悔はしてほしくないです」

雑誌は大先輩であるいわた書店さんの助言を受けて「コンビニで手に入るもの」は避けた。開店早々に「週間読書人」を買って行った男性もいたという。

「かの書房」は道内の同人作家も等しく応援。自作のスリップを差し入れた。

「親には絶対迷惑をかけない」宣言をするような家族思いの加納さんだからこそ、”かのママ”も「それじゃあ、勝手に押しかけちゃえ!」と札幌にやって来る。今回も開店の3日前に札幌に入り、開店前日の深夜2時過ぎまで準備を手伝った。
遠出ができないおばあちゃんのためにも、たくさん写メを撮ってお土産にするそうだ。

店ができたエリアは無書店地区だが、学校が多い。コンビニには並ばない児童書を充実させた。

開店前から「外の人」たちが出入りする本屋さん

クラウドファンディングでの資金集めに始まり、SNSを通して作家本人から公認のお墨付きをもらう「推し作家」、同人作家への棚レンタル、プレ・オープンも兼ねたクリスマス古本マーケット、Twitterでボランティアを募っての開業準備……
「かの書房」を見ていると、店が出来上がるまでにこれほど「外の人」が出入りする本屋も珍しいのではないかと感心する。

平成らしいSNSの活用や「お金をかけずにできること」を連発して、本好き&本屋好きを上手に巻き込む姿に、加納さんの店主としての逞しさが垣間見える。

クラウドファンディングのリターンである支援者1人5冊の「選書棚」。

同じくリターン商品のひとつで、支援者がデザインしたブックカバーは6種類。お好みで選ぶことができる。

「かの書房」の「推し作家」25名の作品はこれから続々と入荷する。作家ごとにファイルを作り、読者の感想を届ける仕組みも構想中。

一方、開店にあたり「残念なこと」もあった。「かの書房」の目玉である文庫と文芸の納品が開店日に間に合わないと取次から開店4日前に連絡があったのだという。
それでも3月18日の開店は、当初昨年12月だった開店日の延期を快く受け止めてくれたクラウドファンディング支援者のためにも絶対に譲れない。すでに届いていた児童書やコミック、雑誌、同人誌を効果的に配置し、お客を迎える準備を整えた。

「今はようやく、ようやくここまできたかという気持ちと、早く残りの注文が入荷してほしい気持ちの半々です(笑)。文庫や文芸が揃えば、推し作家さんたちの魅力をお伝えすることができるから」

“平成最初で最後の個人新刊書店の開業”とも言われる「かの書房」はいま、スタート地点に立ったばかり。店頭の風景も日々変わっていくことだろう。
最新情報はTwitter で発信中。全国の出版・書店関係者の目も注がれているからこそ、今後も地元北海道から盛り上がっている様子をここでお伝えしていきたい。

●かの書房
札幌市豊平区美園3条8丁目2-1
TEL011-376-1856
営業日/10:00~21:00 不定休

kano-syobo.hatenablog.com

地下鉄東豊線「美園」駅から徒歩15分

kano-syobo.hatenablog.com


●かの書房 公式Twitter

twitter.com

●加納あすか
上士幌町出身。高校時代に熱気球操縦士ライセンスを取得。当時全国に二人しかいなかった女子高生操縦士として話題を集めた。現在も地元の熱気球クラブに所属。

ページの先頭へもどる

最近の記事