北海道書店ナビ

第325回 株式会社共同文化社 長江 ひろみさん

5冊で「いただきます!」フルコース本

書店員や出版・書籍関係者が
腕によりをかけて選んだワンテーマ5冊のフルコース。
おすすめ本を料理に見立てて、おすすめの順番に。
好奇心がおどりだす「知」のフルコースを召し上がれ

Vol.90 株式会社共同文化社 長江 ひろみさん

“走る編集者”、共同文化社の長江さん。

[本日のフルコース]
著者のよき並走者である編集者が推薦!
「思わず走り出したくなるマラソン本」フルコース

[2017.5.22]

書店ナビ 株式会社共同文化社は札幌本社の印刷会社アイワードのグループ会社として1981年に設立しました。地域に根差した出版活動を行うために誕生した出版社です。
企画出版のほかに自費出版にも力を入れ、入社25年のベテラン編集者、長江ひろみさんはこれまでに「本を出したい」と願う大勢の方を後押ししてきました。

書店のカウンターで見たことがある方も多いはず。かわいらしい豆本『爪句』シリーズも共同文化社のロングセラー。

長江 縁があって1992年にアイワードに入社してまもなく共同文化社の担当になりました。
周囲の協力のおかげで今日まで続けてこれましたが、入社当初は本づくりのいろはも知らない素人スタート。当時の営業部長の助手として本づくりのノウハウを教わり、情報誌『北海道 味と旅』の編集長だった山本洋子さんのライター塾にも通って基礎知識を身につけていきました。
そのライター塾の仲間とはいまでも連絡をとりあう仲。公私にわたり、あそこに通っていなかったら今の私はいないと思います。

取材当日は長江さんが担当された新刊、坂口一弘氏著『ほっかいどう山楽紀行』が朝刊で紹介され、問い合わせがひっきりなしに続いた。本書には新聞連載時にはなかったカラー写真もふんだんに掲載されている。

書店ナビ 大事なスタートのときによき師、よき仲間を得たんですね。さて、そんな長江さん、プライベートでは市民ランナーの顔をお持ちだとか。
長江 市民ランナーなんて呼べるような記録は何もないんですが(笑)、北海道マラソンを走るようになって今年で9年目になります。
ダイエットで始めたジム通いがそのうち札幌マラソン10kmに挑戦することになり、10km走れたのならハーフ、ハーフが走れたのなら…と気がつけば51歳のときにフルマラソンデビュー。
制限時間の5時間以内にかろうじて滑り込んで完走できた体験が大きくて、現在も細々と続けています。
書店ナビ 近年は大変なマラソンブームです。すでに走っている方も、これからマラソンを始めようかなと考えている方もきっと気になる長江さん推薦のマラソン本、早速一緒に見てまいりましょう!

[本日のフルコース]
著者のよき並走者である編集者が推薦!
「思わず走り出したくなるマラソン本」フルコース

前菜 そのテーマの入口となる読みやすい入門書

走れメロス
太宰治  新潮社

人はなぜ走るのか?と考えたとき、思い出したのが中学校の教科書に載っていたこの短編。改めて読むと実にさまざまなことを考えさせる本だった。ユーモアを交えた終わり方もポイント。

書店ナビ この選書は納得です。誰もが知っている”勇者メロス”の激走の物語。
長江 今回あらためて読み直しましたが、メロス、結構むちゃくちゃなんです(笑)。「邪智暴虐(じゃちぼうぎゃく)」な王様の命を狙うんだけれども捕まってしまうし、はりつけになる覚悟はあるのだけれども、妹の結婚式のために親友セリヌンティウスを人質にして村に帰ろうとする。
でもね、実は妹さんも妹さんの彼氏も全然結婚する準備ができていないのにメロスが無理やり挙式をさせたって知ってました?
書店ナビ えっ、そうなんですか? メロス、なんかたまに帰ってきては騒動を起こす”寅さん”みたい!
長江 そうなんです。メロスはひとりで”激怒”してひとりで奮闘して、最後は親友と殴り合っておいおい泣くんです。でもメロスは走らなければならなかった。人には走り出す理由がある。その極端な、でも勇気をもらう一例です。

スープ 興味や好奇心がふくらんでいくおもしろ本

マラソン―初心者でも楽に完走できる
高岡郁夫監修  成美堂出版

51歳のフルマラソンデビューのときに「どうして完走できたの?」と尋ねられ、「本を読んだ」という答えは半ば本当だ。練習方法からレース中のアクシデント対応まできめ細かく載っていて、これから走ろうとする方におすすめ。

長江 グループ会社のアイワードに走っている人が多かったことも、フルマラソンを走るきっかけになったと思います。ある同僚が「ハーフを走れたのならフルも大丈夫ですよ」とそそのかすので半信半疑で(笑)。

初めてフルを走ったとき、ハーフを完走した時と同じシューズでのぞんだんです。でも本来は途中で足がむくむので普段の靴のサイズより1~2cm大きいシューズで走るべきだったんですね。結果は完走できたものの爪は死に、足の裏がうっ血して紫色に。やっぱりフルマラソンは甘くなかった(笑)。
そういうシューズの選び方や自分のペースの作り方をあらかじめ知っておくと、本来の自分の実力プラスアルファになってくれます。

あと、私が個人的に守っているのは、「歩くな」という同僚からのアドバイス。どんなに遅くても走っていれば歩いている人より速いですし、一度歩いてしまうと二度と走り出せなくなるので。

魚料理 このテーマにはハズせない《王道》をいただく

陸王
池井戸潤  集英社

完走には努力も必要だけれど、一番のアシストはシューズの存在。そのシューズ制作に情熱を傾ける人々の人間ドラマ。”大手に挑む中小企業”といういつものパターンではあるけれど、一気に読ませる筆力は流石。

書店ナビ 編集者の長江さんから見た池井戸作品の魅力とは?
長江 池井戸さんは絶体絶命のピンチを作り出すのが本当にお上手ですよね。その窮地を脱出するアイデアも卓越しているので、読んでいて一瞬たりとも目が離せない。
『空飛ぶタイヤ』からハマりましたが、最後に弱いものが勝つといううれしい筋書きもファンをとりこにする要因だと思います。
書店ナビ どこかのスポーツメーカーがコラボして、作中に出てくる伝説のシューズ「陸王」を再現したら面白いですよね。
登場人物のなかで誰に一番共感しましたか?
長江 やっぱり、小さいけれども百年続く足袋会社を背負った主人公の宮沢社長です。一緒に闘っている気持ちになりました。

肉料理 がっつりこってり。読みごたえのある決定本

風が強く吹いている
三浦しをん  新潮社

箱根駅伝に挑戦する若者たちの物語。実際にはありえない挑戦なのにリアルに感じられるのは、著者の取材力のなせるワザ? もしかしたら自分も頑張れば走れるかも!と思わせてくれる。

長江 今年になって初めて読んだんですが、本当に価値ある一冊でした。登場人物のひとりひとりがすごく光っていて、潜在能力があるとはいえ陸上経験がないビギナーをも巻き込んで夢を叶えていく姿に素直に感動します。
誰一人が欠けても夢は叶わない。駅伝の、というよりも青春小説そのものの真髄に胸が熱くなりました。
書店ナビ 長江さんご自身はリレーのご経験は?
長江 豊平川沿いを走る豊平川サーモン駅伝や6時間リレーマラソンin札幌ドームには数回、会社の人たちと一緒に走りました。札幌ドームは1週2kmくらいですからあっという間。イベント感覚で楽しんでいます。

デザート スイーツでコースの余韻を楽しんで

まらそんノススメ
田渕由美子  集英社

運動とは全く無縁の漫画家がマラソンに目覚める!自己流で始めて1年後にはフルマラソンを完走。漫画やイラストも多くて、楽しく読める。

書店ナビ 田渕由美子さんといえば、少女コミック誌「りぼん」の一時代を築いた大御所で、「走る」イメージはまるでありませんでした。
長江 この本は自分がフルマラソンデビューをしたあとに読んだんですが、田渕さんが特に運動が得意ではなく、アスリート体型でないところも私と同類だなと(笑)。
本書にもあるとおり、フルに出たりすると「毎日走っているの?」と聞かれますが、そんなことはありません。仕事もあるので月に7~8回走れたら上出来なほう。
でも、みなさんも走り始めたらきっとフルマラソンを走れるようになります。それがマラソンのいいところです。

ごちそうさまトーク 出版は体力勝負、走り出して大正解!

書店ナビ お仕事についてもうかがいます。編集者として大事にされていること、そしてこれまで担当された本のなかで特に印象深いタイトルは?
長江 一般の方が自費出版で本を出したいという場合は、可能なかぎり書き手の個性を損なわないように努め、プロのようになめらかな文章とはいかなくとも光る内容を大切にしながら一緒に作り上げていきます。

一方、本職の小説家志向の方とのお仕事は、「全国に通じるようなものを作る」ための真剣勝負。
なかでも札幌ご出身で、1995年に小説『晴天色の着物』で朝日新聞社主催「らいらっく文学賞」に入賞した森久美子先生が当社から出版された『母のゆいごん』は企画本でしたが、初版の3000部を売り切った思い出の一冊。
そのあとに出した『背信 待ち続けたラブレター』もその後森先生が全国区で活躍されるきっかけになれたかなという思いがあります。
北海道から全国区の作家を出すお手伝いができたことは、私のキャリアにとっても大切な出来事でした。

共同文化社から出した森久美子さんの著書。「『背信』は構成も凝っており、小説として非常に高い完成度に仕上がっています」

書店ナビ つねに3~4冊を同時進行で動かしているご多忙な長江さん、マラソンを始めて仕事上、変わったことはありますか?
長江 出版業は体力勝負ですが、走り始めてから無理がきくようになりました。「大丈夫、まだいける」と自分で自信が持てるようになれたかな。
書店ナビ 豊富なキャリアとフルマラソン完走の体力が、編集者としての長江さんの大事なシューズなんですね。
これからのマラソンシーズン、「自分も走ってみようかな?」という気持ちにしてくれるマラソン本フルコース、ごちそうさまでした!

●共同文化社 http://kyodo-bunkasha.net/
●長江ひろみさん
札幌出身。個人病院の受付から知人に紹介されて1992年に株式会社アイワードに転職。グループ会社の共同文化社に出向し、出版業務を担当する。初の単独担当は99年の『小樽歴史探訪』。「そのときに本はつくる側にまわったほうがずっと面白いと出版業の楽しさを覚えました」。

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