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第354回 HBCアナウンサー 鎌田 強さん

5冊で「いただきます!」フルコース本

書店員や出版・書籍関係者が
腕によりをかけて選んだワンテーマ5冊のフルコース。
おすすめ本を料理に見立てて、おすすめの順番に。
好奇心がおどりだす「知」のフルコースを召し上がれ

Vol.111 HBCアナウンサー 鎌田 強さん

取材は鎌田さんが児童文化講座に通った小樽のNPO法人絵本・児童文学研究センターの一室をお借りしました。

[本日のフルコース]
HBCのベテランアナウンサーが伝授する
「読み聞かせ力がアップする名作絵本」フルコース

[2017.12.11]

書店ナビ 今回フルコースに初めてご登場いただく”話し手のプロフェッショナル”は、HBCアナウンサー歴40年の大ベテラン!鎌田強さんです。鎌田さんは現在、読み聞かせに力を入れておられます。
鎌田 もう6年前になりますか、民間放送教育協会の事業の一環として札幌市教育委員会の協力を得て、市内の小学校を対象にHBCアナウンサーによる読み聞かせ教室が始まりました。1年に10校通い続け、明日で今年の分は最終回。ちょうど60校目になります。
私は自分でも読みに行きますが、当社の若手アナウンサーの指導係も仰せつかり、それと平行して図書館ボランティアのお母さんがたに読み聞かせ指南もするようになりました。
そうなりますと「絵本のことをきちんと勉強しなければ」と思うようになり、通い始めたのが今日の取材場所を提供してくださったNPO法人絵本・児童文学研究センターさんです。

●NPO法人絵本・児童文学研究センター

書店ナビ こちらは2018年に創立30周年を迎えられるとか。鎌田さんが通った「大人のための児童文化講座」は全54回。毎月2回の講座を2年半続けるとは、まるで短大並み!
内容もヨーロッパ近代絵本史や日本児童文学史、自然、家族、乗り物、障がい児、戦争・核などのテーマ別の作品群、ファンタジー概論、思春期、そして最後は宮沢賢治、『クラバート』、『ゲド戦記』…と広くて深いプログラムが詰まっています。
鎌田 そうなんです。職業柄、話すことのノウハウはわかっているつもりでしたが、あらためて絵本・児童文学と向き合うと知らないことばかり。講座を受けているうちに今度は日本語についてさらに知りたくなり、日本語教師の学校にも通い始めました。
大人になってからあんなに勉強した年はなかったなあ(笑)。読み聞かせと出会えたことで、私の生涯教育が始まりました。読み聞かせ教室にご協力をいただいている札幌市教育委員会さん、センターの工藤左千夫理事長に心から感謝しています。

[本日のフルコース]
HBCのベテランアナウンサーが伝授する
「読み聞かせ力がアップする名作絵本」フルコース

前菜 そのテーマの入口となる読みやすい入門書

いないいないばあ
文 松谷みよ子/絵 瀬川康男  童心社

赤ちゃんのファーストブックとしても大人気のこの作品。実は”間”の取り方が身につく本です。「いないない…」といった後で間を取らずに「ばあ」といったらどうでしょう。ちっとも面白くありませんね。間は子どもたちに、次にどんな場面が現れるか想像させることのできる”魔法の時間”です。

書店ナビ 読み聞かせで鎌田さんがいつも大切にしていることはなんですか。
鎌田 読み手は、子どもたちが絵本の世界にすんなり入っていけるお手伝いをしている、ということ。”主人公”は読み手ではなく、子どもたちの頭の中につくられていくもの。それを手助けするために我々読み手には、よく通る声や聞きやすい発音、「こう読みたい」という作品理解、そして適切な間が求められると思います。
大正時代に映画館の弁士として一世を風靡し、昭和のトーキー以降はラジオ・テレビでも活躍した徳川夢声(とくがわ・むせい)は「間は魔である」という名言を残しています。
ことばが生きるも死ぬも、間の取り方次第。それを子どもたちに教えてもらうのに、この『いないいないばあ』ほどいい教材はありません。

「ではここで問題です。左が前のページ、右がめくった後の『ばあ』のページ。子どもたちはすぐに気づける”違い”がわかりますか?」(注:取材班はわかりませんでした)

スープ 興味や好奇心がふくらんでいくおもしろ本

これはのみのぴこ
作 谷川俊太郎/絵 和田誠  サンリード

ことばあそびが楽しい絵本。のみで始まり、のみで終わるこの本を暗記している子どももいます。最後の15行を早口ではなくしっかりひと息で読めるでしょうか?読めなくてもいいんです。子どもたちは読み手のそんな苦闘が楽しいのです。声に出して読むことで、日本語をもっと好きになってくれるでしょう。

書店ナビ 「これはのみのぴこ」で始まる一文が次は「これはのみのぴこのすんでいるねこのごえもん」、その次は「これはのみのぴこのすんでいるねこのごえもんのしっぽふんずけたあきらくん」というようにどんどん修飾句が増えていく、なんともトリッキーな谷川さんらしい傑作です。
鎌田 私はよく若手のアナウンサーたちに「ロングトーン(長音)で30秒息が続くようになりなさい」と言うんです。句読点のない文章をひと息で読めるよう”長音”をしっかり身につけなさい、と。実は「のみのぴこ」は、この長音の勉強に格好の一冊。
私の場合、ちょっとした遊びを盛り込み、途中で出てくる「…おすもうさんがあこがれているかしゅの…」のあとで必ずブレスを入れるようにしています。
そうすると子どもたちも自然と「…かしゅの」のあとでブレスを期待するようになる。そこで最後の長~い15行のページにたどりついたときに、わざと「ひと息で」と書いた紙を貼っておくんです。子どもたちは「おおっ!」と目を見開きます。
そこから、すうぅぅ…っと息を吸って「これはのみのぴこのすんでいるねこの…ナントカのナントカにすんでいるのみのぷちぃぃぃぃ~!」と息も絶え絶えに終われば皆、大喜び!
書店ナビ すごい!そこまで演出を考えていらっしゃるんですね。ちなみにプロに失礼かもしれませんが、本当に一息で読めるんでしょうか(笑)。
鎌田 読めます(笑)。15行で20秒くらいですので大丈夫。ただ、不思議なもので「あ~~~」という単調な長音ですと30秒くらいは楽勝でも、摩擦音が入る読みきかせの20秒は私でもキツイと感じます。奥が深いですね、読み聞かせは。

絵を見せながら読むときはこの姿勢で。「この絵本は和田誠さんのイラストも楽しいので、子どもたちも夢中になって聞いてくれます」

魚料理 このテーマにはハズせない《王道》をいただく

あらしのよるに
  
作 きむらゆういち/絵 あべ弘士  講談社

テレビアニメや歌舞伎にもなったベストセラー。大嵐の夜、真っ暗な小屋で出会ったオオカミとヤギ。お互いを仲間だと勘違いしてしまう二匹の運命は…。 オオカミはオス?ヤギはメス?どんな設定でも読める楽しさ。せりふや効果音をどう表現するか、楽しく悩ませてくれる本です。

鎌田 図書館ボランティアの方々からよく聞かれるのは、本作のオオカミとヤギのようなせりふのかけあい、「  」(カギカッコ)をどう読めばいいですか?というご質問です。
書店ナビ 確かに気になります。感情をできるだけ排除して淡々と読めばいいのか、おおげさに作り声をしたほうがいいのか…。
鎌田 私がおすすめしている答えは、「淡々と」以上「お芝居」未満。
スウェーデン映画の『幸せなひとりぼっち』を観たときのことです。おじいさんが近所の子どもたちに絵本を読む場面でクマのせりふを淡々と読むと、少女が「もっとクマらしく読んで!」とねだる。でもおじいさんが「クマはしゃべらんよ」というと「絵本の中ではちがうの!」と答えるんです。
私はこの場面を見て、”なるほど、「淡々と」以上「お芝居」未満でいいんだな”と確信を得ることができました。
『あらしのよるで』の場合は、一人称が「おいら」のオオカミは少し声を枯らしてやさぐれた感じに、丁寧な口調のヤギはやや弱々しくして違いを出す程度にとどめています。

声を間違えないようにヤギの「 」の前にはピンクのポストイットが。生演奏用に「不気味の音 ギター」という音楽効果も貼ってあった。

肉料理 がっつりこってり。読みごたえのある決定本

八郎
作 斎藤隆介・画 滝平二郎  福音館書店

秋田県出身の私に、同じ秋田の八郎潟伝説にまつわるこの絵本をどうしても秋田弁で読んでほしいと頼まれたことがありました。それ以来何回か読む機会があり、おかげさまで好評なのですが、ストーリーをご存じない方には半分も理解できないのです(笑)。なにしろネイティブ秋田弁なので。

鎌田 先ほどのカギカッコの読み方のように、「方言をどう読めば?」という質問もよく聞かれます。秋田弁、関西弁、鹿児島弁…ネイティブではない方言をどう読めばいいのかと。
これも答えはシンプルで、「難しく考えずにご自分の思うとおりに読んでください」とお答えしています。ネイティブそっくりである必要はありません。子どもたちに”同じ日本語でもいろんな言葉があるね”とわかってもらえれば、それで十分。興味が持った子はきっと自分で調べるようになるでしょう。
書店ナビ 大人はつい「正確に」とか「間違えないように」と思いがちですが、子どもたちの想像力や好奇心をもっと信じてもいいかもしれませんね。
鎌田 ええ。来年は、秋田県の八郎潟のすぐ近くの小学校に『八郎』の読みきかせをしに行ってきます。バイオリニストも連れていって音楽も付けたら、子どもたちはきっと喜んでくれるはず。
私が幼い頃、実家の前には田んぼが広がり、その向こうには『八郎』に出てくる「さむかぜやま」、寒風山(かんぷうざん)が見えていました。私にとって故郷の原風景は、この『八郎』で描かれている世界そのもの。大切に読み継いでいきたい一冊です。

デザート スイーツでコースの余韻を楽しんで

しろくまちゃんのほっとけーき
わかやまけん  こぐま社

しろくまのお母さんがおいしそうなほっとけーきをつくってくれるお話。ほっとけーきを作るときの「ぼたあん」「どろどろ」といったオノマトペが子どもたちに大ウケです。日本語に特に多いといわれるオノマトペは、子どもたちの日本人としての感性を育てているのかもしれません。

書店ナビ 《デザート本》に、みんな大好き!「ほっとけーき」が登場です。
鎌田 私も百貨店の食堂で食べるホットケーキが大好きでした。このほっとけーきをつくるくだりですが、ご自分のお子さんとマンツーマンでしたら1回でもいいかもしれませんが、3人の子どもたちに読みきかせするとしたらどうしますか?
「ぼたあん」「どろどろ」から始まり、「…はい できあがり これは太郎くんの」とか「はい これは花子ちゃんの」と1人ずつ名指しで、合計3回つくって(読んで)あげたらステキじゃないですか?
もし子どもたちが10人だったら?(低い声で大きく)

「ぼったあ~ん」「どろどろぉ~」

と、大きいほっとけーきをつくってあげてもいいかもしれません。そこを考えるのが読み手の楽しみ。子どもたちの反応を見ながらお母さんがたの自由に読んでいってもらえたら、と思います。

「ぺたん」「ふくふく」「ぽいっ」と楽しいオノマトペが続くほっとけーきづくり。

ごちそうさまトーク 初のピアノを加えた生演奏読み聞かせも実現!

書店ナビ アナウンサーの本職の技術と絵本の読み聞かせ、共通点はありますか?
鎌田 どちらも「聞き手にしっかりと伝える」という使命は同じですし、「理解して読むとさらに表現がよくなる」ところも同じです。局の若手に指導していると、読み聞かせが上手くなってきた人はニュースを読むのも上手くなっていくのがよくわかります。その成長がうれしいですね。
書店ナビ 年の瀬が迫っています。一年を振り返って印象深かったことは?
鎌田 これまで音楽家の皆さんとのコラボは何度となくやってきましたが、今年の11月に実現した大ホールでのピアノを加えた演奏は、はじめてのことでした。ヴァイオリストの杉田知子さん、ピアニスト矢崎有佳さん、ギターリスト曽山良一さんの演奏をバックに、気持ちよく読ませてもらうことができました。これからも読み聞かせのいろいろな可能性を広げていきたいです。
書店ナビ 間の取り方、息つぎ、カギカッコ、方言、オノマトペといった読み聞かせの基本テクニックから本質的な心構えまで、楽しく勉強させていただきました。
なんだか自分も身近にある絵本を声に出して読みたくなってくるフルコース、ごちそうさまでした!

●NPO法人絵本・児童文学研究センター 児童文化講座 受講希望者募集中!

●鎌田強(かまた・つよし)さん
1954年秋田県潟上(かたがみ)市出身。1977年HBC入局。スポーツや音楽バラエティー、ラジオ等を幅広く担当。現在も続くHBCラジオの看板長寿番組『ベストテンほっかいどう』三代目パーソナリティー。『ザ・ベストテン』の釧路中継で「追っかけマン」として登場したことも。現在はニュース、若手育成を担当。「HBCアナウンサー日記」で好きな居酒屋巡りを綴った「札幌ディープ」を好評発信中!

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