北海道書店ナビ

第328回 トロニカ 広川 啓規さん

5冊で「いただきます!」フルコース本

書店員や出版・書籍関係者が
腕によりをかけて選んだワンテーマ5冊のフルコース。
おすすめ本を料理に見立てて、おすすめの順番に。
好奇心がおどりだす「知」のフルコースを召し上がれ

Vol.94 トロニカ 広川 啓規さん

広川さんが手にしている茶封筒もリトルプレスの1種!《魚料理本》として解説してくれる。

[本日のフルコース]
雑誌専門の古本屋に広がる個人小冊子の世界
「マニアックなリトルプレス・ZINE」フルコース

[2017.6.12]

書店ナビ 札幌の古本屋トロニカのご店主、広川啓規(ひろかわ・あきのり)さんは2009年にサイトを立ち上げ、翌年に実店舗をオープン。
「雑誌専門」という切り口で個性を打ち出し、映画パンフレットなども充実。さらに今回のテーマである「リトルプレス・ZINE」の品揃えにも力を入れています。
広川 リトルプレス・ZINE(ジンと読みます)とは、ミニコミ・同人誌と同義で、個人が自費で作り、大手の流通ルートを通さずに小さな書店や雑貨店・カフェなどを中心に販売している小冊子のことです。
儲けを目的にせず、作り手が本当に作りたいものを作っているのが、最大の魅力です。
当店では現在100種類近くあり、全国の作り手さんからの売り込みも受けています。大型書店やアマゾンにないものも多いので、どうぞ気軽に当店に見に来てださい。

[本日のフルコース]
雑誌専門の古本屋に広がる個人小冊子の世界
「マニアックなリトルプレス・ZINE」フルコース

前菜 そのテーマの入口となる読みやすい入門書

自刻表
上田純也・上田ちひろ

帯広在住の夫婦がつくる旅とレトロデザイン満載のリトルプレス。最新号では旅先で見つけた地元のスーパーマーケットの面白さと、一度 見たら忘れられない個性豊かな看板を特集。

書店ナビ 時刻表ではなく「自」刻表。奥付を見ると、「『自らを、刻み、表すこと。』をキーワードに、毎号テーマにとらわれることなくお送りしているリトルプレスです」とあります。
自分の好きなものをとことん追求するリトルプレスの精神そのものですね。

写真がいっぱい!A5サイズ16ページで300円。お値段がちょっと安すぎるような…。

広川 価格も自分で決めるリトルプレスは300円・500円あたりが多く、経費も出ないんじゃないかとこちらが心配になるくらい。

スープ 興味や好奇心がふくらんでいくおもしろ本

おもしろ絵本シリーズ
makomo

大阪のイラストレーター、makomoさんのゆるくて面白い脱力系絵本シリーズ。「ももたろう」「きんたろう」などオリジナルの童話と全く違う適当なストーリー展開が最高です。

書店ナビ こちらは本職のクリエイターが普段のクライアント・ワークを離れ、自分発信の表現として作っているリトルプレスですね。
「ももたろう」「きんたろう」のほかに「うらしまたろう」「うさぎとかめ」…おなじみの昔話がどう料理されているのか、気になります。

ひとめ惚れしちゃうユルさが魅力のmakomoワールド。A5サイズ8ページの324円。

広川 思わず吹き出すストーリーが、お子さんや若いお客様に人気です。
makomoさんの今年のカレンダーは、表紙に「ひさし」とあるので、お客様が「ひさしって誰?」と手を伸ばしています。「ひさし」の正体は、店頭でご確認ください。

魚料理 このテーマにはハズせない《王道》をいただく

何者からかの手紙
BOOKSOUNDS

茶封筒の中に「つちのこ」「酔っぱらい」「火星人」など、架空の「何者か」から届いた手紙が入っている謎の手紙小説。現在51通まで発行されている人気シリーズです。

書店ナビ 茶封筒の中には手紙が3~4枚。これはアイデアが利いてますね。1通150円(税別)です。
広川 中が読めないという封筒アイデアがかえって購買意欲をそそる売れ筋商品です。取扱店は全国でも数えるほど。北海道は当店のみになります。
「未来からの手紙」「雪男からの手紙」「迷子からの手紙」「煙突掃除夫からの手紙」…といろいろあって、最新作の51通目は「角砂糖からの手紙」です。

「僕が一番好きな手紙ですか?やっぱり1作目の『火星人からの手紙』かな」

がっつりこってり。読みごたえのある決定本

FLAT HOUSE style 
アラタ・クールハンド

米軍ハウス、文化住宅、古民家など古い平屋の魅力とそこに住む人たちの素敵な暮らしぶり紹介するリトルプレス。寝室や風呂・トイレまで掲載されていて、その家に遊びに行ったような気持ちになります。 

書店ナビ 大手出版社の住宅インテリア雑誌と比較しても、まったく遜色のないデザインやテキスト、イラストレーション。
これはもう、プロの仕業ですね。1号と2号は700円(税別)、3号・4号は800円(税別)。値段にも納得です。
広川 ただオシャレな住宅を紹介するという内容だったら、さして珍しくもないと思いますが、本書のテーマは平屋=FLAT HOUSE。このニッチな切り口で先に『FLAT HOUSE LIFE』(中央公論新社)を発行し、そこからさらに「1号につき1軒だけを特集する」というマニアックな姿勢をとことん貫いた自費出版本が、この「FLAT HOUSE style」です。

間取りも紹介。創刊号はなんと著者の自宅を掲載。徹頭徹尾、平屋LOVE!

デザート スイーツでコースの余韻を楽しんで

月刊ビル
BMC

1950~1970年代のビルをこよなく愛する大阪のビル好き集団・BMCが発行している小冊子。今まで知らなかったレトロビルの魅力が満載です。1冊200円。 

広川 当店が入っている三誠ビルも、大正13(1924)年に建設された今年で築93年のレトロビルです。現存する札幌市内の鉄筋コンクリートビルとしては最古のものであり、札幌景観資産にも選ばれています。
トロニカの実店舗を出すとき、市電が見えるレトロビルがいいなと思っていたので、ここはまさに理想の場所。でも、『月刊ビル』で取り上げてもらうにはちょっと古すぎたようです(笑)。

店は三誠ビル2階の10坪。トロニカの店名は「エレクトロニカ」という音楽ジャンルと、細野晴臣・髙橋幸宏のユニット「SKETCH SHOW」のアルバム「tronika」から。「そういう音楽が似合う空間になればと思って」。

ごちそうさまトーク マニアックな「好き」が店頭にずらり

書店ナビ トロニカさんの店頭に並ぶ他のリトルプレス・ZINEを見ていると、「公園遊具」の写真集やおもしろ民芸品を取り上げた「駄民具」など、とにかくディープな「好き」がずらり。圧巻ですね。
広川 お目当てのものが決まっている場合は別ですが、「なにか面白いもの」との出会いを探している方は、実店舗の特権である「いろいろな本をまとめて見る」楽しさを体験していただけたらと思います。
私も自分が好きなものばかり集めていると品揃えが狭くなってしまうので、お客様とお話しながらラインナップの枠を広げていきたいです。
書店ナビ マニアックな「好き」と作り手の本気を全面肯定するリトルプレス・ZINEのフルコース、ごちそうさまでした!

●札幌の古本屋トロニカ 
https://tronikabooks.jimdo.com/
https://twitter.com/tronikabooks

●広川啓規(ひろかわ・あきのり)さん
札幌市出身。東京の音楽会社に勤務後、2009年に北海道にUターン。「音楽と同じくらい好きな本や雑誌を扱う仕事に」と決め、2009年に「トロニカ」WEBをオープンし、2010年に実店舗を開業。月に一度のチカホブックマルシェにも出店中。最新情報はTwitterで!

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