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第434回 ラボラトリー・ハコ 店長 山田 真奈美さん

Vol.160 ラボラトリー・ハコ 店長 山田 真奈美さん

山田 真奈美さん

かの書房企画の書店員勉強会にも参加している山田さん。「毎回勉強になります!」

[本日のフルコース]
あなたの物語が膨らむ辞書や図鑑でウエルカム!
本の世界に戻ってきたくなるおもしろ本フルコース

[2019.7.15]

山田 真奈美さんフルコース本

書店ナビ2014年12月にオープンした札幌市中央区にあるブックカフェ「ラボラトリー・ハコ」さんにおじゃましています。
こちらのスペースは、元は輸入雑貨店で水漏れをきっかけに倉庫にしようという話が、当時カフェ勤めをしていた山田真奈美さんの耳に届き、思いきって引き取ることにされたとか。

山田急な話だったんですが、ずっと「本とコーヒーに関わる仕事がしたい」と思い、そのために貯金もしていたので、この話が来たとき「倉庫にしちゃうなんてもったいない!お店、やります!」と手を挙げてしまいました。

ラボラトリー・ハコ外観

アクセスは札幌の市電「西線6条」駅から歩いてすぐ。友人が作ってくれたかわいい「本あります」のれんが目印!

山田お店のコンセプトは、「あったらいいな」をつくる場所。ものづくりの作家さんたちのお力も借りてワークショップを開いたりして、いろんな実験的なことをしていきたい。
それで店名も「ラボラトリー・ハコ」という造語に決めました。

書店ナビ店内にはいわゆる学習辞典ではなく、料理や雑学などの幅広いジャンルを網羅した辞典・図鑑系の本がいっぱい!
この分野に特化したブックカフェは道内でも珍しいと思います。

誠文堂新光社の辞典シリーズ本棚

山田さんが辞典の面白さに目覚めたきっかけは、誠文堂新光社の辞典シリーズと出会ったから。「営業の方がいらして”これだけの種類が一カ所に並んでいるのを見るのは初めてです”と驚いていました(笑)」
通常の書店では各分野の棚に離して置かれることを思うと、確かにここでしか見れない圧巻の光景だ。

山田私があまり小説を読まないというのもありますが、「知ることで世界が広がること」ってありますよね。
うちにきて、なにか琴線に触れる辞典や図鑑を手に取っていただいて、その人自身の物語が膨らんでいったらうれしいなと思い、集めているうちにこうなりました。
 
ものづくり作家さんたちにとっては創作のヒントにもなっているようですし、プレゼントに買って行かれる方もいらっしゃいます。
今回のフルコースは「最近本屋に行っていないなあ」という方々にもう一度、本を読む楽しさを思い出してもらえるような5冊を考えてみました。

[本日のフルコース]
あなたの物語が膨らむ辞書や図鑑でウエルカム!
本の世界に戻ってきたくなるおもしろ本フルコース

前菜 そのテーマの導入となる読みやすい入門書

メタモルフォーゼの縁側

メタモルフォーゼの縁側
鶴谷香央理  KADOKAWA
75歳にしてBL(BOYS LOVE)を知った老婦人と書店員の女子高生が織りなす静かでやさしい時間。コミックサイト「Newtype」で人気連載中の作品も紙で読めば、また違った味わいに。1話目はサイトで無料配信中!

書店ナビ「本を入口に新しい世界を知る」がラボラトリー・ハコさんのテーマ。このコミックはまさに、夫に先立たれたおばあちゃんがたまたま書店で手に取った本でBLの世界を知るという、直球ど真ん中の内容です。

山田そうなんです!お客様に教えてもらった本なんですが、登場人物が皆あたたかくて、主人公のおばあちゃんが何も知らないからこそ先入観がないところが、すごくいい。

メタモルフォーゼの縁側 誌面

続きが気になって再び書店を訪れるおばあちゃん。「私初めて読んだんだけど(中略)応援したくなっちゃうのよ」の言葉に書店員の胸がさわぐ。

山田私もしばらくマンガから遠ざかっていたのが、この本でまたマンガに戻ってきました。
シンプルに「好き」だという気持ちが愛しくなる。初心に戻してくれる名作です。

スープ 興味や好奇心がふくらんでいくおもしろ本

じつは、わたくしこういうものです

じつは、わたくしこういうものです
クラフトエヴィング商會著・坂本真典写真  文藝春秋
世間には知られていない、一風変わったふしぎな職業がある。その仕事の詳細を聞いた「架空」のインタビュー集。クラフト・エヴィング商會と写真家・坂本真典氏が紡ぎだす「ひと」と「仕事」にまつわる19人の肖像。

書店ナビ架空のお仕事インタビューなので、ある種の人物図鑑ともとれる非常に完成度の高いフィクションです。

山田うちの常連さんとよく盛り上がるのは「こんなのがあったらいいね」という妄想トーク。
なので「ないものをつくる」クラフトエヴィング商會さんの本が大好きで、これもその一冊です。
「月光密売人」とか「沈黙先生」なんて名前を読むだけでワクワクする!この人たちが本当に存在するかのように思えてくる世界観に没頭できます。
 
あ、でも、こういう本はクリエイティブな職業の人やものづくりの人向きと思いがちですが、もちろんそれ以外のお仕事でがんばっていらっしゃる方にもおすすめしています。
「ちょっとお疲れかも?」と思えるお客様にそっと差し出したら、笑いながら読んでくださってうれしかったです。

シチュー当番

山田さんが特に大好きなのが、この「シチュー当番」。「あとがきのネタバレを読むのも楽しいんですよね」

肉料理 がっつりこってり。読みごたえのある決定本

へろへろ

へろへろ
鹿子裕文  筑摩書房
福岡の街中に毅然としてぼけたばあさまがいた。「自分たちで自分たちの場ちゅうやつを作ったらよかっちゃろうもん!」前代未聞の特別養護老人ホーム開設を目指し、あらゆる困難を笑いと知恵と勇気で乗り越える実録痛快エッセイ。

山田うちで展示会をしてくれたものづくりの作家さんが、札幌の「俊カフェ」さんでこの本を知り、「これはぜひ真奈美さんにも読んでほしい!」と教えてくれました。
「この店でやろうとしていることとこの本に書かれていることはきっと近い気がする!」と言ってくれて。
 
それで読み始めたら、おもしろくておもしろくて最後まで一気読み! 本来であれば、行き場の無い老人たちの深刻な話なんですが、もう、どこをとってもマンガみたいなエピソードばかりで暗さがまったくないんです。

ラボラトリー・ハコ店内

店では本の他に食品や雑貨、アクセサリーも取り扱う。カフェスペースには小上がりもあり、子ども連れや創作に没頭したい人をやさしく受け入れ中。

山田たとえば、こんなくだり。資金集めにオークションをするんですけど、中心人物である下村恵美子さんが、下村さんたちを応援してくれている世界的な詩人、谷川俊太郎さんのサイン色紙を

「詩人・谷川俊太郎、八十一歳っ! さっき楽屋でちゃちゃっと書いたこの直筆色紙! もうお歳もお歳です! これが最後のチャンスになるかと思います! 三十年後には立派なお宝間違いなし! スタート価格はズバリ千円から!」

山田ってセリにかけるんです(笑)。
しかもしまいには谷川さんが着ていたTシャツまでその場で脱がして「汗つき、しみつき、においつき!」と売りに出しちゃう(もちろん谷川さんご自身もおもしろがってノリノリです)。

とにかく全篇にわたって圧倒的な熱量が伝わってきて、この本を読むと「私にもなにかできることがあるかも!」と思えてくる。まさに元気がわいてきて、心の栄養補給になってくれるという意味で《肉料理》にしました。

山田 真奈美さん横顔

この本を持ち歩き用と補完用に2冊買ったという山田さん。「持ち歩き用はもうボロボロです」

デザート2皿 ビター&スイーツでコースの余韻を楽しんで

悪魔の辞典

悪魔の辞典
中村徹著・Yunosuke絵  遊泳舎
“言葉を楽しむ辞典”として立ち上げた「YUEISHA DICTIONARY」の第1弾!アンブローズ・ビアスの『悪魔の辞典』を基に500単語を悪魔的視点で書き下ろし。150点を超えるユーモアたっぷりのイラストも収録。

ロマンスの辞典

ロマンスの辞典
望月竜馬著・Juliet Smyth絵  遊泳舎
『悪魔の辞典』と同時に発売。「ロマンス」というまったく新しい切り口から505単語を選定。雰囲気たっぷりの収録イラストは131点。ページをめくるだけでも楽しめる、プレゼントにも最適な胸キュンの一冊。

山田2018年12月に立ち上がった出版社、遊泳舎さんは今、私の一押し出版社。この辞典2冊を見た瞬間、「出会っちゃった!」と思いました。

『ロマンスの辞典』のほうの「猫」を見ると、

猫(ねこ) わがままな一面さえも愛おしく感じさせる。人類にとって癒しの源泉。まるで僕にとっての君のような。

書店ナビあ、まーーーーーーーーーーーい!…すみません、ちょっとムズムズします…。

山田そういう方にはすかさず『悪魔の辞典』を(笑)。

酔っ払い(よっぱらい) 光速移動することなく時間旅行を成し遂げるマッドサインティスト。
欲望(よくぼう) 文明発展のために必要なガソリン。 

山田この2冊を交互に読んでもいいですし、どこからでも楽しめる。『悪魔』『ロマンス』フィルターを通すと、自分の日常もちょっと変わって見えてくるかもしれませんね。

遊泳舎の本3冊

遊泳舎のスローガンは「心に飛び込む出版社」。山田さんの心の奥深くにもダイブしてきた。

ごちそうさまトーク 開店5年目に思う「本の魅力は変わらない」

書店ナビ今年は開店5年目。今後どんなお店にしていきたいですか?

山田初めはカフェスタートで2017年から本を扱うようになり、今年はもっともっと棚を豊かにしていきたいと思っています。
本や本屋さんの未来を考えると決して楽観はできませんが、でも見方を変えるとまだ楽しいことができそうな予感もします。
本の魅力そのものが落ちているわけじゃない。そう信じて本屋仲間やものづくり作家さんたちとつながりながら、いろいろなことを試していきたいです。

書店ナビ辞典・図鑑に特化した切り口が非常に新鮮であり、さまざまなヒントが転がっているようなラボラトリー・ハコ山田さんのフルコース、ごちそうさまでした!

ラボラトリー・ハコ

laboratory-haco.petit.cc

山田真奈美(やまだ・まなみ)さん

カフェ勤務を経て、2014年12月から「ラボラトリー・ハコ」オープン。

山田 真奈美さん「人が人を呼んでくれる 店になってウレシイ!」

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