おすすめ本を料理のフルコースに見立てて選ぶ「本のフルコース」。
選者のお好きなテーマで「前菜/スープ/魚料理/肉料理/デザート」の5冊をご紹介!

第223回 紀伊國屋書店札幌本店

5冊で「いただきます!」フルコース本

書店員が腕によりをかけて選んだワンテーマ5冊のフルコース。 おすすめ本を料理に見立てて、おすすめの順番に。 好奇心がおどりだす「知」のフルコースを召し上がれ

Vol.2 紀伊國屋書店札幌本店 林下 沙代さん

紀伊國屋書店札幌本店 林下 沙代さん [本日のフルコース] 私たちはアタマとカラダで出来ている。 ようこそ、人文科学の世界へ!本  私たちはアタマとカラダで出来ている。 ようこそ、人文科学の世界へ!本 

[2015.5.25]

書店ナビ 林下さんは入社以来9年間、人文科学担当ひとすじとうかがいました。5冊選んでみていかがでしたか?
林下 いやーー悩みましたーー。人文科学の範囲って本当に幅が広くて、新刊が入ってきても、どこの棚に置いていいかわからない本があると「とりあえず人文さん、判断して」ってまわってくるんです(笑)。その広い範囲のなかで自分が好きな5冊となるとかなり悩みましたが、がんばって絞り込んで《前菜・スープ・肉料理・デザート2品》のフルコースを作りました。

前菜 そのテーマの入口となる読みやすい入門書

 橋本治  集英社

わからないという方法 橋本治  集英社 「わからない」。ここからすべてが始まるんです!「わからない」から「わかる」までへの思考状態をからまった糸をほぐしていくように丁寧に、しつこいくらいに(!)解きほぐしていく。ようこそ、深い思索の世界へ!

書店ナビ この本を初めて読んだのはいつですか?
林下 大学生のときです。フルコースで真っ先に思いついたのがこれでした。著者の橋本さんは『男の編み物(ニット)、橋本治の手トリ足トリ』を出していて、本書の中でもセーターにまつわる話を書いています。編み物もひとつひとつの編み目から大きなセーターをつくりあげていきますし、逆にムズカシイ話とかもひとつひとつの細部に“ひも解いていく”って言いますよね。自分の頭で考えていくプロセスを知る。格好の入門書です。

スープ 興味や好奇心がふくらんでいくおもしろ本

17歳のための世界と日本の見方―セイゴオ先生の人間文化講義

17歳のための世界と日本の見方―セイゴオ先生の人間文化講義 松岡正剛  春秋社 無限であるかのように広がる世界も「枠」を意識することで、ぐっと見渡しやすくなったりする。大学生向けの講義を収録したものですが、大人もぜひ。

林下 この本を読みかけのときに売り場で女子高生のお客様に聞かれました。「高校で倫理の授業が始まって哲学に興味がわいてきた。何から読めばいいですか」と。これはもう、絶対にハズすことはできない!と思って、ちょうど夢中になって読んでいた本書をご紹介しました。いろんな話題に触れていますが、特に宗教に関することは今の世界情勢とつながることも書かれていて、この本を読めば今の世界をとらえる力がつく。ニュースがわかるようになります。
書店ナビ その女子高生さんもいい人に聞きましたね。
林下 いえいえ、私のほうこそ「こういう入門を知りたがっている若いお客様向けの3、4冊はいつも用意しておこう」と気が引き締まりました。
林下さん

「《スープ》まではすんなり決まったんですけど《メイン》以降が悩みましたーー」。メインを《魚料理》と《肉料理》にして《デザート》1品の選択肢もあったが、思いきって《肉料理》1品《デザート》2品にアレンジした。

肉料理 がっつりこってり。読みごたえのある決定本

哲学入門

哲学入門 戸田山和久  筑摩書房 ここで「入門」? そうなんです。哲学も時代とともに動いている。文体がとても親しみやすいので《前菜》としてもいけますが、あえて《メイン》にもってくることで本書のより深い旨味を感じられるのではないか、と。

書店ナビ タイトルに引っ張られそうですが、新書らしからぬ内容も448ページというボリュームも「入門」じゃない感じが…。
林下 そこもきっと意図的なんでしょうね。著者独特のひょうひょうとした語り口が読みやすさを保ちつつ、中身はこってり…。一般的な「哲学入門」というと、アリストテレスやカントなどの古典的な哲学者の話で終わりそうですが、この本は近現代の哲学者たちも取り上げていて、科学哲学も社会とともにつねに変わり続けていることを教えてくれます。

デザート1品目 スイーツでコースの余韻を楽しんで

ベンヤミン 子どものための文化史

ベンヤミン 子どものための文化史 ヴァルター・ベンヤミン  筑摩書房 歴史に埋もれてしまった魅力的なエピソードを通じて、《自分でよく観察し、考える》ことの大切さを教えてくれる。

林下 子ども向けラジオ番組を収録したもので、書かれた原稿とは違う面白さがあります。「魔女裁判」「カスパー・ハウザー」「カリオストロ」(例のアニメ作品じゃないですよ)「ジプシー」…文化史や世界史のなかでも謎が多く、ないがしろにされていた人々に視点をあててわかりやすく解説してくれます。
書店ナビ メジャーではなくマイナーあるいは弱者に向ける目線。確かに若いうちから持っておきたいまなざしです。

《前菜》と《デザート》は私物を持ってきてくれた林下さん。大学も人文学部出身。3年前から人文科学担当のリーダーを務めている。

デザート2品目 スイーツ好きには1品じゃ足りません

今までにない職業をつくる

今までにない職業をつくる 甲野善紀  ミシマ社 ちょっと変わり種の一冊を最後に。論理的な思考法を十分に味わった次は、身体で考える楽しさも。

林下 著者の甲野さんは武術研究者です。私、こういう“自分の身体と命がけで対話してきた人”の話がすごく好きで、頭だけでなく身体も動かして世界と向き合っていく姿勢がいまとても大事な気がしています。本屋の仕事も膨大な知識のカタマリである本を取り扱っていますが、ただ置くだけでは売れないし魅力がない。自分の身体をどう使って考えていることを表現していくか。この本を読んでいると、私にもなにかできそうな勇気がわいてきます。
書店ナビ この本の出版社はおもしろい本を次々と出しているミシマ社さん。『今までにない職業をつくる』というタイトルにもひかれますね。
林下 一度も就職したことがない甲野さんが独学で「武術研究者」という職業を切りひらいていった。これって実は「人文書」のありようとも少し似ています。「これは人文書です」と決めた時点でその本は人文書になる。つまりは、自分のやってきたことが自分になる。そんなところが、この本と私の仕事の共通点のような気がしていて、気に入ってます。

ごちそうさまトーク アタマとカラダがつながる流れ

書店ナビ フルコースを選び終えてご自分で気づいたことはありますか?
林下 いかにも「自分の好きなもの」って感じです。特に《前菜》の『「わからない」という方法』に始まって《デザート》の『今までにない職業をつくる』で終わっているところが、アタマとカラダがつながる流れになっていて「ああ、こういうことだよな」とひとりで納得しています(笑)。
書店ナビ 5冊に散りばめられていましたが、林下さんがつねに意識していたのは「自分で考える力を身につける」ことなのかな、と思いました。シンプルかつ大切なテーマが見えてくるフルコース、ごちそうさまでした!

紀伊國屋書店では毎年「紀伊國屋じんぶん大賞」を実施中!


書店川柳

気がつけば まくりにくいな 利き腕の袖

詠み人 女子書店員

書店員は肉体労働。利き腕に大量の本を抱えて棚の補充をするのも当たり前。腕まくりのときにふと、利き腕ばかりが勝手に鍛えられてしまったことを実感したオンナ心が伝わります。

2015年5月から北海道書店ナビは書店員さんにお願いしています、「お好きなフルコースを作ってみませんか?」と。素材はもちろん皆さんが愛する本を使って。 《前菜》となる入門書から《デザート》として余韻を楽しむ一冊まで、フルコースの組み立て方もご本人次第。 読者の皆さまに、ひとつのテーマをたっぷりと味わいつくせる読書の喜びを提供します。
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