おすすめ本を料理のフルコースに見立てて選ぶ「本のフルコース」。
選者のお好きなテーマで「前菜/スープ/魚料理/肉料理/デザート」の5冊をご紹介!

第506回 『ねぐせきょうだい』作者 加賀城 匡貴さん

Vol.186 『ねぐせきょうだい』作者 加賀城 匡貴さん

『ねぐせきょうだい』作者 加賀城 匡貴さん

2021年2月に発売されたばかりの絵本『ねぐせきょうだい』を持って。取材は加賀城さんも「前から来たいと思っていた」俊カフェさんにご協力いただいた。

[本日のフルコース]
初の絵本『ねぐせきょうだい』が好評発売中!
加賀城匡貴さんの「スケルツォになれる本」フルコース

[2021.2.22]

加賀城匡貴さんの「スケルツォになれる本」フルコース

書店ナビ先週は、札幌在住のアーティスト加賀城匡貴(かがじょう・まさき)さん初の絵本 『ねぐせきょうだい』発売記念イベントレポートをお届けしましたが、今週もひき続き加賀城さんにご登場いただき、本のフルコースを作っていただきました。テーマは「スケルツォになれる本」フルコース!

第505回 『ねぐせきょうだい』出版記念イベントレポート

www.syoten-navi.com

ねぐせきょうだい
加賀城匡貴  中西出版
毎朝「ねぐせ」が爆発しちゃうおにいちゃんといもうと。でもそのねぐせ、よく見るといろんな形に見えてきて…。軽快なことばのリズムにのって自由奔放に広がるねぐせの「見立て」を楽しむ、夢も毛量もたっぷりの一冊。

加賀城「スケルツォ」とは、ぼくが1999年に仲間と作ったお笑いグループで、今年活動22年目に入りました。「冗談」という意味のイタリア語です。

実は先日、紀伊國屋書店札幌本店でやったトークイベントに来てくれたおいっこが「どうやったらスケルツォになれる?」って聞いてきたんです。正確には「どうやったらスケルツォのリーダーになれる?」でしたが(笑)。
そのときは「ぼくがOKを出したらなれるよ」と答えましたが、そこからヒントを得て今回のフルコースを考えてみました。

[本日のフルコース]
初の絵本『ねぐせきょうだい』が好評発売中!
加賀城匡貴さんの「スケルツォになれる本」フルコース

前菜 そのテーマの導入となる読みやすい入門書

もたない男

もたない男
中崎タツヤ  新潮社
人気漫画『じみへん』の作者はなぜ、なんでも捨ててしまうのか?捨てずにはいられない超・断捨離の世界。人一倍物欲が強い男がマザー・テレサに憧れ、まるで空き部屋のような仕事場にたどりつくまでを描いたエッセイ集。 

加賀城ぼくももともと、著者の中崎さんみたいにものをとっておくタイプだったんですが、この『もたない男』を読んで衝撃を受けまして。
当時住んでいた一軒家に溢れ返っていたものを、思いきって中味も確かめずに大量に捨てたら、ものすごくスッキリしました。

書店ナビあとで「ああ、あれは捨てるんじゃなかった~」ということはありませんでしたか?

加賀城一度や二度は「あれがあったらなあ」と思ったこともありましたが、それ以外はほとんど平気。本当に大事なものまで捨てていくと、本当に本当に大事なものだけが残る。
その結果残ったものの中に、中学のときの担任だった先生との交換日記があります。
先生はもうお亡くなりになりましたが、思春期特有の夢や悩みがいっぱい書いてあって、それと同じくらい、吉田戦車の『伝染るんです。』の模写がいっぱい書いてありました(笑)。

書店ナビ映像を見せて笑いを誘う「スケルツォ」のパフォーマンスもシンプルに「川」や「州」などの漢字だけを映して家族の寝ぞうに見立てるなど、情報を削ぎ落とした「もたない」表現が秀逸ですね。

加賀城それがテレビの制作現場だったら、そこに音や吹き出しといった情報を足したくなる気持ちもわかるんですが、ぼくはそこでは勝負しないようにしていて、できるだけそのものをシンプルに見せたいと思っています。

スープ 興味や好奇心がふくらんでいくおもしろ本

北海道繪本

北海道繪本
更科源蔵 文・川上澄生 画刻  さろるん書房
昭和24年に初版発行。詩人・アイヌ研究家である更科源蔵の北海道讃歌を、戦中、宇都宮から妻の実家である苫小牧へ疎開し版画制作に取り組んだ川上澄生の画刻で彩る木版画絵本。版元は札幌市南区にあった個人出版社のさろるん書房。

加賀城ぼくは味のある物件が大好きで、札幌の地図を広げて国道から離れた山や川に近い物件探しに夢中になっていた時期があったんです。
そうしたらあるとき、南区の山奥にすごくステキな平屋を、それも道とも言えないような林道のつきあたり、そばを川がごうごうと音を立てて流れている奥地に、ぽつんとL字型の平屋を見つけたんです。

よく見ると「さろるん書房」と書いた小さな看板がかかっている。チャイムを押したら、まるでヨーロッパの教会の鐘のような音が鳴り、「……はぁい、どなた?」と出てきたのが、とてもきれいな身なりをした中舘竹子さんでした。

何も知らないぼくが「ここ、本屋さんですか?」と聞いたら、竹子さんはふふふと笑って「違うわよ、でも本らしきものはあるから見て行く?」とあげてくださって一緒にお茶をいただきました。
そのとき、すでに竹子さんのご主人の中舘正喜さんはお亡くなりになられていたようです。
気になっていた家の中はどこもかしこもステキで、しかも竹子さんご本人がとてもオシャレ。古い車庫には真っ青なマツダのスポーツカーがありました。

ぼくはもうすっかり舞い上がってしまって、いろんなことをお話ししたと思います。そうしたら「出会いの記念に」と、竹子さんがこの『北海道繪本』三部作をプレゼントしてくれました。
「今度は一緒にごはん、食べましょうよ」と言われ、その後も3、4回おじゃましたと思います。竹子さんがスケルツォを見に来てくれたこともありました。

「木版画の詩人」と言われた川上澄生。更級源蔵とは義理の兄弟にあたり、妻同士が姉妹である。

「木版画の詩人」と言われた川上澄生。更科源蔵とは義理の兄弟にあたり、妻同士が姉妹である。

『北海道繪本』は「続」と「続々」もある三部作。木版画が大本靖、松見八百造と変わっている。

『北海道繪本』は「続」と「続々」もある三部作。木版画が大本靖、松見八百造と変わっている。

書店ナビ加賀城さんの行動力が呼んだ本との出会い。まさに「好奇心」という食欲をかきたてる《スープ》にこれ以上のエピソードはありませんね。
その後、竹子さんとのおつきあいは続いたんですか?

加賀城それがだんだん、行き来がとだえてしまって……ついこの間、どうしてるかなと思ってそこに行ってみたら、家はありましたが、もうどなたも住んでいませんでした。《夢からさめたら、もう、その家はありませんでした》という、まるで童話の世界に迷いこんだような気分です。

魚料理 このテーマにはハズせない《王道》をいただく

佐藤雅彦短編映画集「kino」パンフレット

佐藤雅彦短編映画集「kino」パンフレット
ソニー・ミュージックエンタテインメント
CMプランナー時代はサントリー「モルツ」やNEC「バザールでござーる」などのヒットCMを生み出し、現在は東京藝術大学大学院の教授でもある著者が電通から独立後、初めて撮った短編映画集「kino」のパンフレット。全編ルーマニアで撮影された。

加賀城ぼくがまだ放送局勤務時代に高校時代の同級生が「加賀城っぽい本がある」と教えてくれたのが、佐藤さんの著書『クリック』でした。その後、ニュース23でこの映画のことを知り、札幌のシアターキノに見に行きました。

1本目の「オセロ」という作品は、バス待ちをしている4人がいる。最後尾の人が不意に行列の進行方向と反対側のほうを向き、次に先頭にいる人もくるりと後ろを向くと、まるでオセロのように中の二人も方向を変え、あっという間に先頭と最後尾が入れ替わる、バス待ちのオセロが成立する(笑)。
これを観た瞬間に「こういう実験的な表現があってもいいんだ!自分もつくりたい!」というスイッチが入り、スケルツォを立ち上げる直接的なきっかけになった映画です。

それまではお笑いも好き、広告制作や音楽も好き、ファッションも映像も好きと、いろいろ分散していた自分の迷いや好奇心をすべて詰め込んだのが「スケルツォ」です。でもそれもぼく1人では絶対できなかった。今まで一緒にやってきた仲間に心から感謝しています。

メディア・プランナーの石川伸一さんと作ったフリーペーパー『magnet』のスケルツォ全国ツアー特集号。

2005年に初めての全国ツアーを行ったスケルツォ。画像はそのときにメディア・プランナーの石川伸一さんと作ったフリーペーパー『MAGNET』の“スケルツォ公演2005「&キノ」直前号”。

左ページの上が「オセロ」の一場面。

左ページの上が「オセロ」の一場面。佐藤雅彦氏からコメント「どこの国のことかはわからないけど、こんな空気のところにこんな小さな出来事がおこってる ――kinoで僕が表現したかったのは、ある世界観と幸せの提示でした。」もいただいた。

加賀城全国ツアーは佐藤さんの事務所にも許可をいただいて、「kino」を上映したあとに僕らのパフォーマンスをするという"共演"で構成しました。

このときのステージを見た編集者さんが「加賀城さんの見立ての視点は面白いから、小学生向けの教材本を出しませんか?」と声をかけてくださった。それが『脳トレ!パッとブック』(教育画劇)です。

その『脳トレ!パッとブック』で実は、今回中西出版さんから出していただいた『ねぐせきょうだい』の原型となるキャラクターをすでに描いていて、そのきょうだいがとうとう、絵本の主役になって皆さんにお披露目できる日がくるなんて……なんかもう、この「kino」から今日にいたるまでの全てがつながっていて、いつか佐藤さんに直接お会いしてお礼を言いたいです。

ネタ帳の「ねぐせ」ページ

いつも持ち歩いているネタ帳の「ねぐせ」ページをチラ見せ。

肉料理 がっつりこってり。読みごたえのある決定本

アンリミテッド:コム デ ギャルソン

アンリミテッド:コム デ ギャルソン
清水早苗、NHK番組制作班編  平凡社
NHKで放映され大きな反響を呼んだドキュメンタリーを、未放映分を含めて書籍化。川久保玲をはじめ内外の約70人が、先鋭的な服作りの秘密を語る。 

加賀城高校を出てから父に「大学に行かない4年間もあるんじゃないか」と言われ、ロンドンで語学学校に通いながらサッカーチームに所属していたときもファッションの街、ロンドンにいられることがめちゃくちゃうれしかったです。
コムデギャルソンの洋服が好き、ということもありますが、その作り手である川久保玲さんのものづくりのスタイルにとても惹かれます。

このインタビュー集は川久保さんのメッセージが大きくゴシック体で載っていて、それがもうゴシック体以外にはないというベストな選択肢。
明朝でも丸ゴシックでも違う、角が刺さりそうなゴシック体、しかもエクストラボールドでいいと思える強さ、説得力を感じます。 たとえば、"万人受け"を嫌うこんなことばもありました。

よかったですね、きれいだったですね、と全員から評価を受けたとしますね。それはもう不安です。そんなにわかりやすいものを作ったのか、と自己嫌悪に陥ってしまう。

加賀城これを読んだとき、すごく勇気、元気がわいたんです。スケルツォをやっていると「どこまでわかりやすくするか」ということは、いつも課題になります。
でもそのときにぼくの中で筋が通っていれば、やってみる価値はあると信じたい。そういう勇気をくれる川久保さんです。

スケルツォのステージ

ファッションショー的な要素を盛り込んだスケルツォのステージ。コレクションに見せかけて、まとっているのは布団、「しかも敷き布団です」。

デザート スイーツでコースの余韻を楽しんで

山の意匠―田淵行男写真集

山の意匠―田淵行男写真集
田淵行男  朝日新聞社
日本を代表する昆虫生態研究家で自然写真家の田淵行男(1905~1989)は、それまで記録のために撮られていた山岳写真を芸術家の目でとらえ、「日本の山岳写真を変えた男」ともいわれている。本書は1971年出版の写真集。

加賀城Eテレの日曜美術館で特集されているのを見て、はじめて田淵行男の存在を知りました。
田淵さんは写真集のレイアウトや装幀、文章も全部自分でやりたい方だったようで、やっていることはすごくデザイナーに近いと思う。
写真自体もとてもすばらしいんですが、その"なんでも自分でやりたがるところ"にも勝手に共感を覚えました。 いま、うちにある画集や写真集系はこれ一冊です。

山の意匠―田淵行男写真集1

山の意匠―田淵行男写真集2

山の意匠―田淵行男写真集3

あとがきにも「持前の凝り性から,私は装本からレイアウトまで自分で手がけるのを最大の念願としているが,(中略)また「意匠」とあるからには私は意識的に混みいった合成や,特殊な効果を狙った割付をかなり採入れたので,別して印刷所の方々にご面倒をおかけした。」とある。

ごちそうさまトーク トーク&パフォーマンスが好評!

書店ナビ表現者、加賀城匡貴を構成する5冊、堪能しました。

加賀城ぼくが本格的に本を読むようになったのは20代半ば以降で、《前菜》の『もたない男』にならって一度読んだ本はすぐに手放してしまうほうなんです。
ですので今日ご紹介したのは、手元に残したいと思える本当に本当に大切なもの。どれもぼくの好奇心をかきたてて、一歩を踏み出すことの大切さを教えてくれた、正真正銘の「スケルツォをつくってくれた」5冊です。

2020年のコロナ禍でスケルツォのステージもいくつかキャンセルになりましたが、その一方で『ねぐせきょうだい』を仕上げることができました。
先日やったように『ねぐせきょうだい』の著者トークとスケルツォのパフォーマンスのセットでうかがえますので、気になるかたは気軽に声をかけてくださいね!

書店ナビ将来おいっこさんがスケルツォに入られたときは叔父・おいっこコンビでまたお話を聞かせてください。『ねぐせきょうだい』で絵本の世界にも踏み込んだ加賀城さんのフルコース、ごちそうさまでした!

スケルツォ

https://www.facebook.com/scherzokagajomasaki

加賀城匡貴(かがじょう・まさき)さん

1975年北海道札幌市生まれ。幼い頃から人を笑わせることが好きで、1999年に音や映像、演劇的要素も含むお笑いグループ「スケルツォ」を結成。「見立て」の視点を学ぶ小学生向けワークショップを展開し、学校図書『脳トレ!パッとブック』(教育画劇)も出版。2021年2月に初の絵本『ねぐせきょうだい』(中西出版)を出版。

毛布をコート代わりにまとって 自転車に乗っている男性を見て 「布団」というネタができました。

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