おすすめ本を料理のフルコースに見立てて選ぶ「本のフルコース」。
選者のお好きなテーマで「前菜/スープ/魚料理/肉料理/デザート」の5冊をご紹介!

第479回 BOOKニュース:創業20周年記念セール開催中!寿郎社 土肥寿郎社長インタビュー

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8月末まで継続が決まった寿郎社20周年記念セールは信じられないくらいお買い得!この画像は書店ナビのライターが購入したラインナップ。

[2020.6.29]

太っ腹!3つのコースで創業20周年記念セール

5月18日の北海道書店ナビBOOKニュースでも紹介したとおり、現在札幌の骨太出版社、寿郎社が創業20周年記念セールを開催中だ。

第475回 BOOKニュース:寿郎社創業20周年記念セールを買ってみた! - 5冊で「いただきます!」フルコース本 北海道書店ナビ

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セールの内容は以下の3つのコースで構成されており、寿郎社の刊行書籍81点と2020年9月発刊予定の新刊1点――札幌在住のエッセイスト北大路公子さん初の小説集――の合計82点の中から購入者は好きな本を選ぶことができる。

●5000円コース=お好きな本3冊+『20周年記念紙JUっ!2020』
●10000円コース=お好きな本7冊+特製クリアファイル(赤/黒)+『20周年記念紙JUっ!2020』
●30000円コース=お好きな本10冊+特製トートバック(赤/黒)+『20周年記念紙JUっ!2020』

どのコースも本の価格に関係なく購入でき、そのうえ送料込みという非常に太っ腹な読者還元企画であり、SNSでも続々と「買いました!」という投稿が上がっている。

かくいう書店ナビライターも5月頭に7冊コースを購入。『札幌の映画館(蠍座)全仕事』を見ながらほくほく喜んでいたら、書店ナビの運営元であるコア・アソシエイツの麻生社長も先日とうとう参戦したとのこと。

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「7冊にしようと思っていたがあれよあれよという間に10冊になった」そう。

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実寸の四六判並製本(ソフトカバー)をデザインした記念トートバッグ。クリアファイルも同じ柄で、寿郎社の編集者・下郷沙季さんがデザインした。土肥社長曰く「英語で"JUROUSHA 20th Anniversary"とか入れればいいかなと思っていましたが『そんなのありふれてて面白くない』と言われてしまいました(笑)」

土肥寿郎社長に聞く20年の歩み・いま・これから

寿郎社の代表取締役編集長、土肥寿郎さんは2016年2月更新の「本のフルコース」にご登場いただいたことがある。

第260回 寿郎社 代表取締役編集長 土肥 寿郎さん

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ご本人の経歴や「われわれの頭からすっぽり抜け落ちている 《近現代史》を知るための本フルコース」のラインナップはそちらを見ていただくとして、今回は前述の20周年記念セールを中心に質問をメールで投げかけ、回答をいただいた。
思いの丈が詰まった回答をぜひ最後まで読んでいただきたい。

書店ナビ「20周年記念セール」の企画はいつごろから思いつかれたんですか?

土肥まったくの"思いつき"というか、ある種の"イキオイ"でやってしまったようなもので、決して周到に企画されたものではありません(笑)。コロナの影響は多分にあります。
10周年のとき、寿郎社の著者であり応援団長でもある慶應大学大学院教授でFM北海道のパーソナリティーの林美香子さんが「記念パーティーのようなものではなく、お金をかけずに"手づくり感"のある著者と読者の交流会みたいなイベントをやってはどうか」と言ってくれて、私としてはあまり気乗りしなかったんですが、やってみたところ、おいでくださったみなさんがすごく喜んでくれた。会社としても在庫がけっこう売れて、とてもありがたかったんです。
 
そういう経緯があったものだから、20周年でも創業記念月の4月から5月にかけて社内イベントをやろうと考えていました。ところがコロナの影響で3月くらいから雲行きが怪しくなり、書店イベントもみんな中止になってしまった。寿郎社の若いスタッフが中心になって1年前から準備してきた6月のブックフェア「ヨマサル市」も開催できないことになりました。
 
寿郎社はコロナであろうとなかろうと常に経営的に大変ですが、この時はあてにしていた現金収入が全くなくなってしまうということになり、「困ったなあ」と家で頭を抱えていたら妻が「20周年の記念にネットで全国の方に本を買ってもらったら?」と言い出したんです。
そこから社内で検討した結果、先ほどご紹介いただいた5000円、10000円、30000円の3コース(送料込み)、しかも「返礼品」付きの「ふるさと納税」のようなかたちのセールに落ちつきました。
 
若いスタッフからは、いわた書店さんの「一万円選書」のように3冊、7冊、10冊の本をあらかじめこちらで決めておけばいいのではという意見もでましたが(そのほうがこちらも手間が省けますし)、それはやめました。
だって読みたくもない本をどっと送られてきてもうれしくないでしょ。
いわた書店の一万円選書は購入者の趣味嗜好を聞いてからそれに合った本を選んでいるから、ただ好き勝手な本を送っているのとは明らかに違います。
 
それでこちらは寿郎社の在庫80点あまりを一覧表にして「お好きな本をお選びください」としたわけです。 そうすれば本屋の店頭にいるように本を選ぶ楽しみも味わえる。発送する側は大変ですが(笑)。

「おかわり」も登場!SNSで地元札幌にアピール

書店ナビ反響はいかがでしたか?Twitterで購入したラインナップをうれしそうに投稿する方々を大勢見かけました。

土肥この一カ月半で150人くらいの方が購入してくれました。やはり5000円コースが一番多く、10000円コース、30000円コースの順で売れてます。冊数にすると700冊以上ですね。
一番売れているのは『北の想像力』(本体7500円)、二番目が『札幌の映画館<蠍座>全仕事』(本体4500円)です。やはり高い値段の順に売れている(笑)。
 
予想外だったのは割引のない単体(1冊)の本の注文も増えたことでしょうか。また、最初5000円コースを購入してくださって3冊を読み終えた頃に今度は7冊の10000円コースを注文してくださったり、もう一度5000円コースを求められる「おかわり」をしてくださる方も出てきました。
購入者の所在地で多いのはやはり東京および首都圏、道内では札幌市です。でも全国から来ています。四国・九州・沖縄などからも。

書店ナビうれしいですね。コロナで大変な時期に全国の皆さんが寿郎社の本に注目してくださった。

土肥この企画をやってよかったなと思うことは、書店に置いてもなかなか動かなかった『北の想像力』に大勢の方が興味を持ってくれたことと、札幌の方に寿郎社の本のことをより知ってもらえたことです。

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右が一番人気の岡和田晃編『北の想像力』(A5判 798頁)。第七部に収録されている「「北の想像力」を考えるためのブックガイド」に圧倒される。左は二番人気の『札幌の映画館 (蠍座) 全仕事』(B5判 948頁)。かつて北海道の映画ファンを魅了した名画座が発行していた「蠍座通信」全222号を再録している。

土肥5000円コースで7500円の『北の想像力』を購入できるようにしたのは、経営者として考えれば利益が上がらず忸怩たる思いもあるのですが、じゃあ、何もしないでただ売れるのを何年も待っていればよいかと言うと、編集者としては「本は読まれてなんぼ」という意識がある。
また内容的にも自信がある本ですから、「目先の利益よりもこの本を読んでもらえれば寿郎社の本づくりに対する姿勢が伝わり、それが長い目で見れば営業的にも良い結果に結びつくだろう」という思いがありました。
私の中の「経営者」と「編集者」がせめぎ合ってそうなった(笑)。それで良かったと思ってます。 
実際のところ、「『北の想像力』は前から気になってはいたものの値段が高くて手が出なかった。今回のセールで購入できてとてもうれしい」といった反応を複数の方からいただきました。
 
また、札幌の方に寿郎社の本のことをより知ってもらえた――というのは、当社は北海道新聞に毎月新刊の広告は出しているものの、ここ20年ほどの新聞離れはものすごいですから、新聞を読まない人は札幌市民でも地元の出版社のことを知らない人が多いのです。
むしろ東京の読者のほうが寿郎社のことを知っている。若い人の情報源はSNSですが寿郎社(私)はネットでの宣伝が不得手なもので……。
今回はSNSでセールのことが広まり、地元からの注文が多数きました。
「自分の住む札幌にこんな出版社があったんだ」という感想を多くの方からいただき、今更ですが地元でより知ってもらえてうれしいです。

出版界の地盤沈下に棹さす一冊を、札幌の"奇跡"は続く

書店ナビ2016年2月の取材時に土肥さん(=寿郎社さん)の本づくりは近現代史に軸足を置きつつ、「弱いものを助けたい」「権力・権威に対して『おかしいものはおかしい』と声をあげ続けるジャーナリズム精神を大切にしたい」とおっしゃっていました。

土肥自分の出版に対する意識はずっと――ここ30年ばかり――変わっていません。どこも出さないような「売れない」企画でも、内容的に今の世に必要だと思えば、できるだけ出していきたいと思ってます。
この20年を振り返ってみれば2000年代に入ってから――特に2001年の小泉政権になってから――経済にしろ近隣諸国との関係にしろ、さまざまな問題が悪くなってきたように思います。それが一層ひどくなったのが安倍政権時代の今でしょう。
 
さきほど新聞離れのことを言いましたが、本を含めて世論がきちんとした言論によってではなく、ネット上の「気分」みたいなもので動いていくことを危惧しています。
特に第三次安倍政権になった2014年以降、ヘイト本があふれているように出版界全体の地盤沈下がひどいと思っています。そんな状況に竿さす本を出してゆきたい。

書店ナビ創業21年目、寿郎社さんは何を見つめていますか?

土肥22年目をめざして四苦八苦しています(笑)。それは冗談ですが、20周年記念誌『JUっ!2020』に文芸評論家の岡和田晃さんが書いてくださっているように、「知らぬ間に慣らされていた政治的現実の虚飾を引き剥がす」ような出版活動を続けていきたいと思っています。
 
それには多くのエネルギーを必要としますので、これからも心ある多くの方々に小社の本を買っていただけることを願っています。
まがりなりにも寿郎社が成り立っていること自体が一つの"奇跡"だと自分でも思っていますから、この奇跡をできるだけ持続させてゆきたい。30周年・40周年を迎えられるように。 

書店ナビあらためて創業20年おめでとうございます。 寿郎社さんの創業20周年記念セールは8月末まで継続中!この記事をご覧の皆さんも北海道出版界の"奇跡"継続の後押しに一役買ってみませんか?

寿郎社 https://www.ju-rousha.com/

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