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第323回 東海大学 国際文化学部 地域創造学科 札幌キャンパス 特任助教 植田 俊さん

5冊で「いただきます!」フルコース本

書店員や出版・書籍関係者が
腕によりをかけて選んだワンテーマ5冊のフルコース。
おすすめ本を料理に見立てて、おすすめの順番に。
好奇心がおどりだす「知」のフルコースを召し上がれ

Vol.89 東海大学 国際文化学部 地域創造学科 札幌キャンパス 特任助教 植田 俊さん

植田研究室では南区の情報を発信するフリーペーパー「SAN」を発行。取材・撮影・編集を学生たちが行っている。

[本日のフルコース]
私の知っている教科書と違う?
「大学の図書館で出会うオモシロ教科書指定本」フルコース

[2017.5.8]

書店ナビ 今回の選者は、2014年に札幌の南区にある東海大学に着任し、スポーツと地域振興をキーワードに研究・フィールドワークをされている植田俊先生です。
フルコースのテーマが「大学の教科書指定本」とは、新学期が始まった春にぴったりの切り口ですね。
植田 大学は小中高時代にはまったく習わなかった分野や新しい知識を、学問として自由に吸収できる場です。
各先生が学生に勧める”教科書”のジャンルも幅広く、教員にとっても「えっ、これが教科書になるの?」と驚くような本ばかり。

しかもそういう驚きの教科書が大学図書館には勢揃いしており、ほかの公共図書館とはひと味もふた味も違う「知る」楽しさに満ちています。
本学もそうですが、大学図書館は実は学生以外の方々も利用できることをご存知ですか? 皆さんにもっと大学の教科書、そして大学の図書館を身近に感じてほしくて今回のフルコースを組み立てました

植田先生の研究室には、「頭にあることをとりあえず書き出した」フセンがあちこちに貼りめぐらされていた。「ちょっと恥ずかしいなあ(笑)」。

[本日のフルコース]
私の知っている教科書と違う?
「大学の図書館で出会うオモシロ教科書指定本」フルコース

前菜 そのテーマの入口となる読みやすい入門書

フクロウ ─ その歴史・文化・生態
デズモンド・モリス 白水社

「かわいらしさ」を楽しむ、あるいは生態を知るだけでなく、フクロウと人間の切っても切れない結びつきを教えてくれるフクロウ本。これが”教科書”になること自体が、大学での学びが「新たな視点をもたらす」ことを最重要視している証し。

書店ナビ 著者は高名なイギリスの動物学者デズモンド・モリス。ここ数年、札幌市内にもフクロウカフェができるなど人気が高まっているフクロウが主役の本なんですね。
植田 古代の洞窟壁画にフクロウが描かれていたり、土偶になってときには崇められる対象であったり、フクロウの存在がわれわれ人類といかに精神的かつ生活的にも深く結びついているかが、よくわかる一冊です。
自分がこれを読んでフクロウに対する見方が変わったように、普段見慣れているものや「こういうものだろう」と思いこんでいる事柄が知識を得た瞬間にがらりと変わる。それが大学で知る読書の楽しさのひとつです。

スープ 興味や好奇心がふくらんでいくおもしろ本

エビと日本人
村井吉敬  岩波書店

普段なにげなく食べているエビを日本人はどれだけ愛してやまないか。日本人の「エビ愛」が実は世界経済を動かしていた!この本を読んだ学生たちは例外無く驚きます。

植田 これは私の授業で使っている本で、「ある日、急にエビが食べられなくなったらどうする?」という問いかけから始めて、学生たちを揺さぶっています(笑)。
たとえば輸入の養殖エビが私たちの口に入るまでには、まず外洋の零細漁民がいて、彼らに小型トロール船を貸し出す船主や養殖池主、さらにそのうえに集売人といわれる仲介業者がいて、彼らと契約を結ぶ輸出業者が冷凍輸送船で日本にエビを運ぶ…といった具合に縦横につながっている無数の関係者の労働と利益のうえに、あのおいしいエビが食べられる日本の食環境が成り立っている。
世界経済をお金で考えようとしてもぴんとこないかもしれませんが、身近なエビでなら漠然とでも経済や流通が思い描けるようになります。
本書と同じ岩波新書の『バナナと日本人―フィリピン農園と食卓のあいだ』も非常に勉強になります。おすすめです。

魚料理 このテーマにはハズせない《王道》をいただく

ローカルボクサーと貧困世界―マニラのボクシングジムにみる身体文化
石岡丈昇  世界思想社

ピストン堀口、具志堅用高、辰吉丈一郎、亀田興毅…日本の時代の記憶と重なるボクシング・ヒーローたちがどのように生み出されてきたかを徹底的に解明した渾身の1冊。スポーツの本当の「顔」を知ることになる!   

植田 著者の石岡さんは、筑波大学時代に同じ研究室にいた私の先輩です。彼がなぜこのテーマに興味を持ったかは本書に譲りますが、なんと本人が実際にボクサーとしてマニラのボクシングジムに所属し、ボクシングで身を立てることの障壁や難しさを身をもって調査したのが、この本なんです。
書店ナビ 自分が調査対象者と同じ立場になっちゃうとはすごい!こういう本も大学の”教科書”になるんですね。
植田 スポーツ社会学の教科書に指定されています。ボクシングって究極の個人競技だと思われがちですが、ジムで存在感をアピールするには自分のスタイルを身につけなければならない。集団競技としてのボクシングについても理解が深まります。

肉料理 がっつりこってり。読みごたえのある決定本

名作椅子大全
織田憲嗣 新潮社

これぞ、ザ・研究書!ひとつのことにこだわりぬいた研究者の生き様が詰まった大著。研究者でなくとも一度ページを開けば、本書のすごさに圧倒されること間違いなし!

書店ナビ 家具のまち、旭川にお住まいの東海大学名誉教授、織田憲嗣(おだ・のりつぐ)さんは世界的に有名な椅子研究家です。
織田氏が所有する世界各国の椅子1200脚以上が連なる「織田コレクション」を守る有志団体「織田コレクション協力会」もあるほど。日本が世界に誇る椅子研究家が、実は北海道にいることにも驚かされます。
植田 今年初めて手にとった本ですが、たった一人の著者が世界の椅子についてこれほどまでに深い造詣・知識・分析をもって紹介できることにただただ敬服します。
同じ研究者としてまだ半人前の私がワンテーマでこういう本を出せるかと言われたら…ムリだとは言いたくないけれど今はまだ(笑)。
でもいつか本書を書いた織田先生の領域に近づきたい! 見るたびに刺激をいただいてます。

「しかも本書のイラストはすべてご本人による手描きなんです。手描きですよ!この精確さ、美しさ。シビれますね」

デザート スイーツでコースの余韻を楽しんで

おべんとうの時間
阿部了・写真/阿部直美・文  木楽舎

「これも東海大の”教科書”認定本?なんの授業に使われているんだろう?」と私自身が興味をそそられたフォトエッセイ。登場人物それぞれのお弁当ストーリーが、空きっ腹を刺激するおいしそうな写真とともに紹介されている。

書店ナビ 阿部了さん・直美さん夫婦が全国の手作りお弁当を取材して歩いた全日空機内誌『翼の王国』の人気エッセイシリーズ。現在は3巻まで出ています。
植田 食事って決して「腹を満たす」ためだけのものではないんですよね。お弁当箱のなかにはごはんやおかずと一緒に、家族や恋人、友人、先生、上司・後輩たちとの思い出が詰まっています。
それに誌面に登場されるみなさんの、自分の好きなものについて語ったあとのうれしそうな表情がとてもいい。写真を見ているだけでもほっこりします。

お弁当を見せてくれた市井の人々の職業もさまざま。北海道からはばんえい競馬関係者が登場する。写真は温泉地の砂かけ係の女性。

ごちそうさまトーク 「本読めば 賢治の世界に ひとっとび」

書店ナビ 植田先生の専門分野は、スポーツと地域振興。特に後者では南区のまちづくりにも力を注ぎ、学生たちを中心に地域カフェを展開。地元の方々との交流を深めています。

植田研究室の学生たちが編集・発行している、南区を楽しむ地域フリーペーパー「SUN」(south area network)。2017年春号は「食」がテーマ。

植田 その地域カフェでも、よく本の話で盛り上がっています。実は今日、個人的に好きな絵本を持ってきたのでその話をしてもいいですか(笑)。こちらです。

宮沢賢治の名作『よだかの星』をイラストレーターの中村道雄が見事な組み木絵で表現した偕成社の絵本。

植田 小学2年のときにこの絵本を読んで感動し、宮沢賢治にハマりました。『よだかの星』も出版社別に集めて、多分10冊くらい持っています。
標語コンテストで「本読めば 賢治の世界に ひとっとび」という標語で表彰されたのはこども時代のいい思い出ですが、読書で「ひとっとび」できる喜びは今も変わらず続いています。
本はいつでも皆さんが読んでくれるのを待っている。それが本のやさしさなんだと思います。皆さんもどうぞ大学図書館で、新しい世界との出会いを広げていってください。
書店ナビ レポートを書くためだけの場所じゃない、大学図書館本来の魅力を教えていただいたフルコース、ごちそうさまでした!

●植田俊さん 
岩手県盛岡市出身。横浜国立大学教育人間科学部学校教育課程保健体育科卒業。筑波大学大学院人間総合科学研究科博士後期課程体育科学専攻単位取得満期退学。2014年に東海大学国際文化学部地域創造学科札幌キャンパス 特任助教として着任。札幌オオドオリ大学にも参加。

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